就職試験

アベノミクスを時事問題で考えるなら自分のモノサシではかるべし

アベノミクスは安倍政権における日本の経済政策ですが、度々その是非が問われています。基本的な内容を確認しつつ、成功した部分やうまくいっていない部分などを確認し、自分なりの意見を持てるように準備しておくと良いでしょう。

アベノミクスは成功か?失敗か?あなたはどう考える?

現在の日本の経済政策は「アベノミクス」と呼ばれ、安倍総理になってから行われているため首相の名を冠したものとなっています。安倍政権が長期化する中、今ひとつ景気の浮揚効果が見られないとの声もあり、アベノミクスは成功か失敗かという議論を見かけることも増えています。

就活サークルを運営する大学生の酒井君は、アベノミクスをどう考えるかは時事問題やディベートのテーマになりうると思い、アベノミクスについての見解を知人の経営コンサルタントであるK・エーイ氏に尋ねてみることにしました。

アベノミクスといえば「3本の矢」

―エーイさん、おはようございます!今日は「アベノミクス」について教えてください!

おはようございます。でも、酒井君は大学生なんですから、アベノミクスは大学の教授に聞いた方がいいんじゃないですか?きっと経済学部の教授たちもよく考えていると思いますよ。

―それがダメなんです。「結果は歴史が証明する」「経済政策の効果はすぐにはわからない。そのため、現在進行形のものは評価しがたい」とか何とか言って、ちゃんと教えてくれないんです。

困りましたね。学者がそう言っているのに私なんかが迂闊に口を出すわけには…。

―いやいや、こんなの飲み屋でグチる感覚でいいんですよ。きっと。あくまでプライベートですから!

まあ、確かに仕事でもないですけど、個人の見解ということでお願いしますね。で、酒井君は何が知りたいんですか?

―そうですね。まず、アベノミクスの「3本の矢」について教えてください。

基本的なところですね。アベノミクスといえば安倍総理が度々演説で使っているように「3本の矢」と言われるものがありますが、それは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3点セットです。これは海外でも言われているものですね。

―これについて考えていけば、アベノミクスがわかるということで良いのでしょうか?

まあ、これがアベノミクスの全てというには経済は複雑すぎるのですが、この部分についてしっかり考え、意見を持つことがまずは大事ではないでしょうか。全体を捉えようとすると、どうしても酒井君の学校の教授がおっしゃるように「今は判断できない」点があまりに多いですから。教育や政策の効果はすぐには出てくるものではありません。

アベノミクス第一の矢「大胆な金融政策」は成功の声が多い

―それでは、アベノミクス第一の矢「大胆な金融政策」について教えてください。

金融政策というのは、簡単に言うとインフレやデフレをコントロールするために、金利や通貨を調節することです。たとえ物価が上がっても、同程度お金の価値が上がれば見た目上の価格は変わりませんよね。そういう役割です。

―でも、それが「大胆」ってどういうことですか?

「大胆」というのは、金融政策の原資は国のお金から出ますし、その影響は大きいためにある程度の幅や期間を決めて行うものなんです。しかし、それを期限を定めずに行ったり、市中に流れるお金を従来の2倍にしたり、今も大きなお金を注入しています。そのため、「異次元の金融緩和」などと言われていますね。

―金融緩和って何ですか?言葉はよく聞きますけど。

要は金利を下げることです。金利が下がると企業や個人がお金を金融機関から借りやすくなるので、市中にお金が多く出るようになります。逆に金利が上がるとお金を借りにくくなるので、市中でお金が使われず貯金が増えるようになります。

―じゃあ、今は金利が高いんですね。消費がイマイチで、貯金が多いって言いますし。

いいえ、それがそうではないんです。これは金融緩和だけの問題ではありません。すでに日本の金利は世界的に見て非常に低い水準なんです。しかし、将来への不安や投資先の不足によって金利が下がってもあまりお金が市中に流れていない状況があります。

―じゃあ、アベノミクス第一の矢は失敗なんですか?

いや、それでも第一の矢は成功したと見る見方は多いです。少なくとも、大規模な金融緩和を続けてきた結果、倒産企業数なども少なくなっていますし、株価などはアベノミクス前よりも大幅に上がっていますから。景気そのものは上向いていると見ていいのだと思います。

―そうなんですね。じゃあ、金利ってどうやって下げるんですか?

金融政策決定会合という金融政策について話し合うところで定めて、あとは国債などを国のお金で購入することによって下げます。飲み物に水を入れるような感じで、金融市場に国がお金を入れるほど味が薄くなる、つまり金利が下がると考えるといいでしょう。

―じゃあ、景気を上げるために国が金融市場にお金を入れているってことなんですね。

そうなんです。で、当然ながら国のお金をいつまでもそこに投入するわけにはいかないので、どうするかってことなんですね。

―金融緩和をずっと続けることは難しいんですか?やっぱり財政的な問題?

はい。主には財政的な問題です。ただ、対外的な問題もあります。本来ならこういう金融政策は貿易や為替に大きく影響しますから、あまり大きくするべきではないんです。今は他の国々で金利が少しずつ上がっており、日本も足並みを揃えて上げることが期待されているところです。アベノミクスは「3本の矢」ですので、1本でも欠けると他の矢への影響も出るので難しい局面ですね。

アベノミクス第二の矢「機動的な財政政策」は評価が分かれる

―アベノミクス第二の矢は「機動的な財政政策」というのはどういうことでしょう?

まあ、難しいことを省けば、「どんどん公共事業を行うぞ」っていうことですね。公共事業というのは本来は税金を使って公共のインフラなどを作ることですから、色々と検討して慎重に行うべきなのですが、今はインフラを作ることで民間企業に仕事を与えたり、市中にお金を投入することが大事だと考えて、早め早めに手を打つということですね。

―なるほど。

たとえば、台風や地震などがあった場合にも、政府から「いくら支援をする」というような話が出てニュースになりますが、あれも財政出動ですね。そういったことをどんどん行うと決めて予算を取っておくことですぐに動けますし、必要なら追加の予算を審議して通過させる方針なんです。

―こういうことって、すぐには決められないものなんですか?

基本的には予算が発生するものは、国会で審議して通さないとできません。だから機動的に財政政策ができるような状況を予め作っておくんですね。

―なるほど。それであちこちで道路工事ばかりしているんですね。

道路工事は目立つのですぐわかりますが、その他にも河川整備やら何やら色々やってるんですよ。

―でも、それだけ今までよりも行っているならアベノミクス第二の矢は成功じゃないんですか?

問題はそこですね。財政政策によってインフラ関連企業は当然潤いますし、波及して多くの業界に良い影響が出ているので成果は上々と言えます。しかし、当然ながらお金の出処は国民からの税金ですから、それは国の財政運営を厳しくし、国の借金を増やす方向に働きます。

―じゃあ、とりあえず借金して財政政策をどんどん行っているんですか?意味がわからない!

これも、結局は景気が良くなって、企業や個人の収入が増えれば税収も増えて、最終的に財政状態も健全になるという考えで行われています。問題は、思ったより景気が上がっていないということで、アベノミクス第三の矢の「成長戦略」も含めて考えなければなりません。

アベノミクス第三の矢「成長戦略」は失敗なのか?

―アベノミクス第三の矢は確か「成長戦略」でしたよね。

はい。成長戦略は実に様々あるのですが、あまりうまくいっていないという評価が主になっています。バブル以後、失われた10年、失われた20年と言われるように、日本の景気は落ち込み、国際競争力もどんどん低下しています。この状況を何とかしなくてはなりません。

―成長戦略って、どういうことをするんですか?

まず、成長力のありそうな産業を助けることですね。具体的には税金を下げたり、ある事業に関する法律的な要件を緩和したり。また、助成金なども以前よりずっと種類も増えています。

―なるほど。そうやって企業活動が楽になるようにするわけですね。具体的な例をいくつか教えてもらえますか?

たとえば、身近なところで言えば車や住宅などでしょうか。特定のエコ基準を満たせば税金が安くなるとか、そういったものがありますよね。また、ZEH(ゼッチ)住宅と言われる太陽光で自宅のエネルギーをまかなうようなタイプの住宅にすると補助金が出ます。観光の分野ではビザの緩和によって爆発的にインバウンド(訪日客)が増えるようになり、旅館業法なども少しずつ整理・緩和されてきています。

―そう言われてみると、確かに変化を感じますね。成長戦略はそれなりに機能しているんですね。

その分野ではそうですね。ただ、海外へ日本の先進技術として売り込んでいた原発であったり、新幹線やリニアモーターカーなどのインフラは、度重なる地震や自然災害から安全性が疑われたり安全確保などが難しく、撤退を余儀なくされているところもあります。世界規模で売り出すものが減ってきていると言えるかもしれません。

異常気象を通して自然との付き合い方を見直してみよう

―でも、日本は世界有数の自動車メーカーも多いんじゃないですか?

はい。しかし、自動車に関しても最新の自動運転や電気自動車などの技術についてはやや遅れ気味になってきています。また、保護主義的な貿易の影響で輸出にも悪影響が出そうで、以前ほど楽観できる状況ではなくなっています。

―成長するってなかなか難しいんですね。

そうですね。加えて、国内の労働人口の変化もあります。少子高齢化の影響で、労働者の数が減ってきていますし、また先端技術を扱える技術者が思ったほど増えていないなど量や質の両方に問題が残っています。働き方改革で、高齢者や女性、外国人の就職などを促しているところですが、改善にはしばらく時間がかかるでしょう。

―こう聞いていると、あまり成長は期待できなさそうですね。

そうかもしれませんね。国が様々な施策をして、特区を作ったりして産業を保護したり育成しようとしていますが、結果的にそこからイノベーションといえるようなものもほとんど出ていません。その中で、縁故企業に都合の良い支援が多いという指摘もあります。「成長」戦略というより、まず「生き残り」戦略の側面が今は強いかもしれませんね。

アベノミクスの疑問「景気は上がったのか」を考えるならモノサシを持つ

―アベノミクスって、結局成功したのか失敗したのかってどう考えたらいいんでしょうね?

難しいところですよね。でも、こういう問題を考えるときは、ちゃんとモノサシを持たないといけませんよ。道具が違えば結果も当然違いますから。

―モノサシですか。アベノミクスを測るためには何を考えたらいいかってことですね。

そうです。まあ、色々あると思いますが、アベノミクスの三本の矢で繰り返し言われる「景気」で判断するのが一番いいんじゃないかなと私は思っています。

―景気ですか。景気って目に見えるものでないだけに難しくないですか?

そうですね。GDPであったり、経済成長率であったり、株価であったり、国の財政収支であったり、いろんな数字で考えてみることは大事だと思います。ただ、それらが上がった下がったと言われても、根本のところの私たちの評価基準って結局「景気」だと思うんです。失われた何年なんて言っても、その間にマイナス成長だった年なんて実はそんなに多くはありません。

―そうなんですね。でも、ずっと不景気な感じがするんですけど。

それなら、景気が上がっておらず、アベノミクスはあまりうまくいってないんでしょうね。

―でも、僕の感覚だけなんで。

景気動向指数などの統計情報を見てみると、リーマンショックの頃に大きく下がったくらいで、あとはジワジワと現状維持あるいは上がっているんですよ。そういう意味ではまあまあアベノミクスは成功していると見ることもできます。でも、それでも景気がよくなったと実感しにくいのは、富の分配の問題があるからなんでしょうね。

アベノミクスには富の分配に問題がある

経済学は分配の学問とも言われます。アベノミクスで景気が上がっているとしても、様々な保護がされているとしても、それが全体に波及しないと景気が良くなったと実感しにくいんです。

―アベノミクスは企業や富裕層を優遇しているとよく批判されていますよね。

はい。波及効果という意味では、お金を持っているところがたくさんお金を使ってくれる状況を作れば景気は良くなっていくはずなんですが、それがうまくいってないですね。ほら、今のお金持ちってお金をジャブジャブ使うっていうより、使い所をよく考えていたり、節税なんかも上手だったり、何かと賢いんですよ。

―つまり、お金のある人ばかりどんどんお金が増えていく?

アベノミクスにはそういった状況があるんでしょうね。格差が拡大しているとはよく言われます。諸外国と比較するとまだマシなようですが。

―うーん、それなら一庶民としてはアベノミクスはうまくいってないと判断せざるを得ないですね。

まあ、そういう判断になるんでしょうね。企業や仕事をする環境になると「まあまあ良くなったかな」と感じるんですけど、生活や家計になると「あまり景気上がってない」と感じる人が多いんじゃないかと思います。企業が利益を出してもそれほど賃金が変わらないなどの状況もありますから。

―賃上げなども今進んでいますけど、アベノミクスが良い方向に動いてくれるといいですね。アベノミクスや日本経済について色々考えてみるよい機会になりました。エーイさん、今日はお付き合いいただきありがとうございました!

アベノミクスの今後は自分のモノサシを持って注目しよう

アベノミクスは、世界的にも有名になりました。しかし、今後は働き方改革の実施、消費税増税、東京オリンピックなどの国家的なイベントを控えて、その真価が問われることになります。三本の矢の継続や実施状況、景気や財政状態などに注目することが重要です。成功や失敗を断定することはできませんが、自分の考え方を持って時事問題を検討することが重要です。