藤井聡太ブームを時事問題として考えてみよう
藤井聡太さんと言えば、将棋界に現れた天才棋士として非常に有名になりましたが、将棋というコンテンツをはじめ、一人の棋士がここまで注目されたのは理由があります。様々な角度から、インタビュー形式で藤井聡太さんのブームの裏側を考えてみます。
止まらない天才棋士「藤井聡太」はなぜブームにまでなっているのか
「藤井聡太」と言えば、将棋を知る人の中ではもはや知らない人はいない存在となりました。それどころか、将棋界を飛び越えて、今日本で最も有名な高校生であると言えるでしょう。将棋界の数々の最年少記録を塗り変えてきた藤井聡太七段は、将棋だけでなく様々な分野で注目を集めています。
就活の時事問題としても注目している大学生の酒井君ですが、社会人から見た藤井聡太七段について経営コンサルタントのK・エーイ氏にも尋ねてみることにしました。
藤井聡太はオジサンたちを驚かせた「本当にすごい若者」
―エーイさん、将棋好きですか?
唐突に何ですか?将棋ですか?私は将棋好きですよ。アマチュアで段位持ってるくらい。
―え?本当ですか?エーイさんて外国人じゃないんですか?
ふふふ。私は日系2世で、日本国籍なんですよ。日本人らしさを身につけたいと思って、子供の頃は頑張って将棋を指していたもんです。趣味が高じて大人になってから段位ももらいました。
―すごいですね。でも、今日はエーイさんの将棋の話じゃなくて、将棋の藤井聡太七段についての話が聞きたいんです。時事問題として考えた時に、どうして将棋界を超えてあんなにブームになってるんだろうって。
ああ、藤井聡太さんですね。まだ高校生なので、「くん」付けされることも多いようですが、本人は年齢は関係ないので「くん付けはやめてほしい」って言ってますよね。藤井聡太さんは、すごいですから、ブームになったのも無理はないですよね。
―何でブームになったんですか?
その理由は至極単純です。「本当にすごい若者」ということで、オジサンたちが驚いたからでしょう。
―え?たったそれだけ?
いや、それだけって言えばそれだけですけど、これはすごいことですよ。基本的に上の世代って、下の世代を認めないでしょう?それが認めざるを得ないわけです。藤井聡太さんはそれだけの実力とスター性を持っている天才棋士と思われていますし、実績がそれを証明しているんですね。
藤井聡太七段のどこがすごい?
―うーん、将棋をあまり知らない僕としては、ちょっと理解がついていかない気がします。具体的には何がすごいんですか?
藤井聡太さんは何がすごいのかというと、最年少記録を様々に塗り替えているんです。プロの棋士と言われるのは4段からなんですけど、これに14歳2か月でなっちゃうんですね。4段になると大手企業の新卒社員くらいの給料も出るんですよ。中学生ですけどね。
―え?そうなんですか?14歳からそれって相当すごいんですね。
はい。それに対局で勝ったり大会でいい成績残したり、スポンサーがついたりと、プロになると収入の幅も広がるんです。ちなみに、プロになるには奨励会という組織に入り、プロを目指す人たちと競争を繰り返しながら上の段に上がっていかないといけません。アマチュアの4段がプロの2~3級くらいのレベルだと言います。
―本当に、全然レベルが違うってことなんですね。
はい。己の頭だけで何パターンも先の局面を正確に考えるということができるプロ棋士は、もはや超人の域です。その超人の中でも頭ひとつもふたつも抜き出た天才が藤井聡太さんなんです。
―藤井聡太さんはどのくらいすごいんですか?
記録によれば、藤井聡太さんはプロになる前、小学生の頃にはすでに詰将棋大会で一流のプロ棋士と同レベルの成績を叩き出しています。そして、自作の詰将棋はプロも驚くほどで、詰将棋作家と言っても良いレベルだったそうです。デビューから29連勝と破竹の勢いで勝利を重ね、あっという間に七段にまで昇段してしまいました。勝率も歴代トップの記録でまさにニューヒーローとなっています。
―何だかマンガみたいなストーリーですね。
はい。もうマンガみたいな展開すぎて笑えてくるくらいです。将棋界の天才といえば、羽生善治さんが有名だと思いますが、彼も10代でプロデビューし、どんどんタイトルを取っていきましたが、藤井聡太さんはそれを上回るペースで快進撃を続けている点でも期待大ですね。羽生さん以来、20年、30年ぶりに出てきた超がつく天才だと言われています。藤井聡太さんがこれから将棋の道を行くのは間違いないとしても、ちゃんと高校進学を決定したところも評価されているでしょうね
藤井聡太ブームは仕掛けられた
個人的には、藤井聡太ブームは仕掛けられた感があるのですが、悪い気はしませんね。将棋が大きく認知されるという点でもとてもよかったんじゃないかと思います。
―藤井聡太ブームが仕掛けられた?どういうことでしょう?
もちろん、藤井聡太さんが天才であるというのは将棋関係者ではかなり前から知られていました。でも、それが一般のレベルにまで急激に広がったのは、デビューの最初の相手が良かったと思うんですね。
―藤井聡太さんのデビューの相手?誰だったんですか?
藤井聡太さんのデビュー戦の相手は、「ひふみん」の愛称で知られ、将棋界に様々な伝説を残した加藤一二三さんです。藤井聡太さんに破られるまで、14歳7か月でのプロデビューという記録を持ち、62歳6か月差という現役最年少vs現役最高齢という対局は、バラエティ的にも向いているということで、将棋に興味がある人もない人までも、たくさんの視聴者を釘付けにしました。加藤一二三さんがバラエティ番組にも広く顔を出し、親しまれていたということもあって多くの人が注目してくれましたね。
―このキャスティングが仕組まれていたと?
真偽はわかりませんが、これほど面白いキャスティングができるなら、やるしかないという判断だったんじゃないですかね。そして、そこで藤井聡太さんが勝利してからの一戦一戦をメディアも注目して速報しましたし、それが29連勝にまでつながったんですから、やはり運だけでなく実力も伴っていて、一気にスターダムにのし上がったと言えるでしょうね。連日求められるコメントも、高校生離れした落ち着きや知性を感じさせていましたから。
―多くの人が藤井聡太さんにここまで興味を持ったのは、バラエティ的な要素があったからなんでしょうか?
そうですね、将棋だけなら厳しかったでしょうね。しかし、バラエティ的な要素というよりも、ワイドショー的な切り口が多かったこともあるんでしょうね。特に朝やお昼の情報番組としては、メインターゲットの主婦層が気になる「どうしたら藤井聡太のような天才を育てられるのか」というテーマで取材した情報が色々と出ましたし、幼児に将棋を教える家も多くなったと言います。教育に関する問題が多い中、藤井聡太さんがひとつのモデルとなったのかもしれませんね。
―なるほど。ただ将棋が強いってだけではないんですね。藤井聡太さんを見る目って、色々なものがあるってことなんですね。
はい。そうです。ただ、そのあたりは将棋連盟やメディアも心得ているようで、藤井聡太さんが学生ということもあって配慮しながらいい形で売り出してくれていると感じます。本人も誠実で好青年ですし、逸話も面白いものが多い。露出が多くなれば、自然に高感度が高くなっていく感じですね。こうやって作られる国民的スターも悪くないんじゃないかと思います。
藤井聡太人気はナショナリズムとカタルシス
―藤井聡太さんがすごいのはわかったんですが、正直ここまで話題になっているとは思いませんでした。
そうですね。私の意見としては、ここまで藤井聡太さんがブームになったのは、ひとつのカタルシスを藤井聡太さんが日本人に与えたからではないかと考えています。
―カタルシス、ですか?あれ?カタルシスってどういうことでしたっけ?
カタルシスっていうのは、もともと「浄化」って意味ですけど、今はまあ「日々たまっている鬱憤みたいなものが解消された」ような場合に言うことが多いですね。
―どうして藤井聡太さんがカタルシスなんですか?
それはですね、将棋という「日本の文化と伝統」に対して、ついに期待できそうな守り手が出てきたからじゃないかと思うんです。
―ちょっと将棋がわからないからか、よくわからないんですけど。
はい、将棋の世界ではですね、やはり強い人は強くて、なかなか世代交代って進まないんですよ。羽生善治さんなんてもう20年くらいタイトル戦ばかりやっているみたいな。羽生善治さんが悪いわけではないですが、閉塞感のある状況だったんですね。
―ああ、何だか日本の社会みたいな(笑)。
そういう見方をする人もいます(笑)。さらに、AIとプロ棋士が勝負するというコンセプトで行われたイベント大会でも、プロ棋士チームはAI将棋チームに負けてしまうんです。
―ああ、何だかこれからの日本みたいな(笑)。
そういう見方をする人もいます(笑)。ほら、大相撲なんかでも、長らく日本人の横綱がいなかったりして外国人に勝てなかったり、日本のいろんな伝統工芸も熱心に学ぶ外国人が職人になったりしている中です。その中で、藤井聡太さんはある意味「期待の星」なんですね。今まさに奪われつつある日本の文化と伝統を、日本人の手で守れるんだっていう。
―藤井聡太さんについてそんなナショナリズム的な見方もあるんですね。
いや、日本人てすごいですよ。エアギターの大会じゃ世界一の人材をよく輩出しています。でも、そこまで話題にもならないし、生い立ちなどもほとんどネタにならないでしょう?
―そういえばそうですね。
やっぱり、ナショナリズムを多少感じさせるようなものであってこそ、反応もやっぱり大きいんですよ。少なくとも、メディア受けはしやすい。藤井聡太さんが壊した様々な閉塞感は、日本を明るくするものだと感じて、多くの人が積極的に情報を展開しているんでしょうね。
藤井聡太ブームでわかる日本人は「あやかる」のが大好き
藤井聡太ブームで、日本人は「あやかる」のが本当に大好きなんだなぁと思いましたね。
―そうなんですか?たとえばどんなことが?
藤井聡太さんが将棋を覚え始めたのは幼稚園の頃になるのですが、その幼稚園で行われていた「モンテッソーリ教育」が急にクローズアップされて書店で平積みにされたり、藤井聡太さんが使っていたのと同じデザインの「扇子」が売れたり、休憩時間中に頼んだ昼食にあやかってメニューを決めたりする人が多く出たなど、いろんな話があります。
―すごいですね。アイドルみたいですね。
いやあ、藤井聡太さんはアイドルですよ。バレンタインデーには混乱を避けるために「本人にではなく、将棋連盟にチョコレートやプレゼントは送ってください」とルールを作ったら、持ち帰れないほどの量のチョコレートが連盟の本部に届いたそうです。さらには、そのルールは他にも適用されると思った他の棋士のファンもたくさんのチョコを棋士宛てに送って、連盟は大変なことになっていたそうです。
―将棋のイメージ変わってきました。
でも、将棋って堅苦しい頭脳戦のイメージが強いかもしれないですけど、心理戦だったり、対局中のエネルギー補給の考え方なんかが出ていて面白いんですよ。おやつにホールケーキまるまる一個出てきた人もいたり、昼食も丼物+麺類という炭水化物コンビがよく見られます。
―藤井聡太さんのおかげで将棋の面白いところにも注目してもらえるようにもなって、良かったんですね。
はい。何でもあやかりたがる日本人の性質のおかげで、将棋のちょっとマニアックな部分までクローズアップしてもらえたので、将棋関係者は本当にうれしかったと思います。ちょっとストイックな考えの方は面白くないかもしれませんが、藤井聡太さんの影響力はそれほど大きかったんです。
今後の日本で求められるのは他分野での藤井聡太
―藤井聡太さんのような天才って、どんどん他の分野でも出てきたらいいですね。
はい。それは潜在的に国民みんなが望んでいることじゃないかと思います。いろんな人がいろんな才能を持っていて、それを上手く開花させることができたらいいですよね。
―そのためにはやはり、早い時期からの教育が大事なんでしょうか?
最近の教育学では、素質と環境の両方が必要だということが定説になっていますね。今、野球やサッカーなどで世界的に活躍している選手たちもやはり素質もありましたし、早い時期から教育を徹底して受けています。アイススケートなどもそうですよね。
―でも、みんながみんな素質があるわけでも、環境があるわけでもないですよね。
そうではありますが、藤井聡太さんにしても、本人の才能だけではここまでのブームにはならなかったと思います。見守り、支援した両親をはじめ様々な人々がいたでしょうし、地域や、メディアなど、様々な助けがスターを作ったという感じです。今はSNSなどもあって、そういった天才的な素質をもった人が次々発掘されれば、周りが援助をしたり必要な環境に繋げたりして、いろんな分野で第二、第三の藤井聡太が出てくるかもしれません。
―本当にそうなったら希望的ですね。ちょっと年上の僕たちの方がそうなったら立場が危ういけど、それはそれとして頑張ればいいか。何だか若い人が活躍しているって話題は元気が出ていいですね。エーイさん、ありがとうございました!
藤井聡太七段が見せたのは若者の可能性
伝統的な分野では、知識の集積によって若者が活躍するのが難しくなっていますが、将棋界における藤井聡太七段が見せた快進撃はそういった閉塞感を打ち壊すものでした。若者が活躍する分野は、必ずしも先人たちが手を付けなかったニッチな分野だけではありません。藤井聡太七段の活躍は、若者たちの可能性を私たちに教え、勇気と元気を与えてくれるものです。ぜひ、藤井聡太さんに負けじと、自分の得意分野で努力し、活躍していけるよう頑張りましょう。