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残業代の計算法を知って損しないための正しい知識を身につけよう

残業代の計算は少々難しいですが、今後は正しく計算することができないと個人にも企業にもリスクになる可能性があります。様々なケースにおける残業代を、実際に計算しながら計算方法を学びましょう。

残業代の計算方法を知らないと損する場合がある

働き方改革の関連法案が、2019年4月から順次施行されていくことになりますが、その中で残業に対する様々な規制も出てきます。残業代や残業時間の計算は従来に比べ、よりしっかり行う必要が生じます。もし、違反している場合には罰則も強化されているため、企業にとってはリスクになるからです。

また、従業員として働く個人も、正しく残業代が計算されていない場合はきちんと主張しないと、思わぬ損を被ってしまうこともあります。残業代の計算について、正しい知識を身につけておきましょう。

残業代についての基本

残業代については、わかっているようで実はきちんとわかっていない人も多いです。まずは、残業代に関する基本的なことを確認しておきましょう。

残業には「法定労働時間」を超えたものと「所定労働時間」を超えたものがある

「残業」と考えられるものには、実は2種類あります。ひとつは「法定労働時間」を超えた労働時間で、もうひとつは「所定労働時間」を超えた労働時間です。

「法定労働時間」とは「1日に8時間、週に40時間」を上限と定めているもので、労働基準法によってこれを超える労働については割増賃金を支払うことが義務付けられています。

「所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約によって定められている労働時間で、一般的にはこの時間を超えると「残業」と認識されますが、法定労働時間の範囲内であれば割増賃金を支払う義務は発生しません。

なお、法定労働時間は法律上の上限になりますので、所定労働時間を法定労働時間以上に設定しても法的には無効となります。所定労働時間が9時間だとしても、8時間を超えた分については割増賃金を支払う必要があります。

所定労働時間の超過や深夜労働や休日出勤で発生する残業代の割増賃金

労働基準法では、所定労働時間を超えた分については残業代として25%の割増賃金を支払うことが義務付けられています。また、所定労働時間の超過分が月に60時間を超えた場合には、60時間の超過分について50%の割増賃金を支払う必要が生じます。

この割増賃金は、所定労働時間を超過した分だけでなく、深夜労働や休日出勤などでも発生します。深夜労働については、25%の割増賃金が発生することになっており、残業によって深夜労働になった場合は普段の賃金に50%(所定労働時間外労働25%+深夜労働25%)が割増されます。一方、休日出勤で法定休日に働いた場合は35%の割増賃金が発生しますが、法定外休日に働いた場合は35%の割増賃金は適用されません。

残業代の計算で大事な基礎賃金と時給との違い

残業代などの割増賃金を計算する際に、基礎賃金というものを算出して、それを元に割増率を乗じて支払うべき給料の額を算出します。基礎賃金は、時間あたりの賃金ではありますが、いわゆる時給とは微妙に違いがあります。

時給の場合、基礎賃金の計算は特に必要なく時給がそのまま適用されます。しかし、月ごとに支給される手当がある場合には、その手当についても法律に則って1時間あたりの金額を算出して時給に加えたものが基礎賃金となります。

残業代を考える際に欠かせない基礎賃金の計算方法

ここで、基礎賃金の基本的な計算方法を紹介します。時給の場合の計算方法や月給の場合の計算方法も併せて見ていきましょう。自分の残業代を確認する際の大事な計算方法なので、ぜひ覚えておきたいものです。

基礎賃金の基本的な計算方法

基本的な基礎賃金の計算方法は、次の通りです。
基礎賃金=給与(給料+一部の手当)÷(期間の平均的な)労働時間

この式が意味する所としては、

ということです。残業代の計算をする時には大事なことなので、必ず覚えておきましょう。

時給の場合の基礎賃金の計算方法

時給の場合、基礎賃金の計算は特に必要なく時給がそのまま適用されます。しかし、月ごとに支給される手当がある場合には、その手当についても法律に則って1時間あたりの金額を算出して時給に加えたものが基礎賃金となります。

基礎賃金=800+12,000(円)÷100=920(円)

月給、その他(日給や年俸制など)の場合の基礎賃金の計算

最もポピュラーな月給や、その他日給や年俸といった形態の場合には、1時間ごとの賃金を計算する必要があります。計算方法は、次のようになります。資格手当などがある場合の計算方法も併せて確認しましょう。

基礎賃金=240,000(円)÷160(時間)=1500円

基礎賃金={240,000(円)+12,000(円}}÷160=1637.5円

基礎賃金の計算から除外される手当の種類

以下の手当については基礎賃金の計算から除外されますが、これら以外の手当については算入したうえで基礎賃金を計算します。

残業代の計算例をケース別にチェック

それでは、残業代の計算例を割増賃金が発生する場合、法定労働時間を大きく超えた場合、法定時間外労働と深夜労働がある場合などケース別に見ていきましょう。

残業代の計算例:割増賃金が発生する場合

基礎賃金が1,700円で、所定労働時間が月に180時間であり、そのうち月に20時間が法定労働時間外の労働に該当する場合、給与額は次のように計算できます。

給与額=1,700(円)×180(時間)+1,700(円)×20(時間)×0.25
=306,000(円)+8,500(円)
=324,500(円)

いわゆる「残業代」をどう考えるかですが、この場合は割増賃金分を「残業代」と考えるかは難しいところです。所定労働時間は就業規則や雇用契約で定められている労働時間であり、常時守らなければならない労働時間と考えられます。

しかし、法定労働時間を超過した20時間については割増賃金が適用されています。一般的には所定労働時間を超えた場合に残業代と言うことが多いです。

逆に言えば、このようなケースでは残業代がカウントされていないことで割増賃金が支払われていないケースもありますので、就業規則上、所定労働時間が法定労働時間を超過する場合は注意してください。

残業代の計算例:法定労働時間を大きく超過した場合

基礎賃金が1,700円、平均労働時間が月に180時間であり、加えて月に80時間の法定労働時間外の労働が発生した場合、給与額は次の通りです。

給与額=1,700(円)×180(時間)+1,700(円)×60(時間)×1.25+1,700(円)×20(時間)×1.50
=306,000(円)+102,000(円)+51,000(円)
=459,000(円)

「残業代」は法定労働時間を超過している80時間分の賃金153,000円となります。残業代の内訳では、60時間までは割増率25%、60時間を超える分は50%が適用されています。

残業代の計算例:法定時間外労働と深夜労働がある場合1

基礎賃金が2,000円で、平均労働時間が160時間、加えて月に20時間の法定労働時間外の残業があり、うち10時間が深夜労働(午後10時~午前5時の間の労働)となる場合は、次の通りです。

給与額=2,000(円)×160(時間)+2,000(円)×10(時間)×1.25+2000(円)×10(時間)×(1+0.25+0.25)
=320,000(円)+25,000(円)+30,000(円)
=375,000(円)

こちらの計算例では、法定労働時間を超過した分の労働賃金である55,000円がいわゆる「残業代」ということになります。

残業代の計算例:法定時間外労働と深夜労働がある場合2

基礎賃金が2,000円で、所定労働時間が160時間で、加えて月に80時間の法定労働時間外の残業があり、40時間が深夜労働となるケースを考えてみましょう。飲食店や医療機関などでこうしたケースはよく見られます。この時、深夜労働がどの部分に該当するかによらず、給与の総支給額は同じになりますが、残業代については数字が違ってきます。

深夜労働が所定労働時間内で、法定労働時間外の労働は深夜労働でない場合

2,000(円)×120(時間)+2,000(円)×40(時間)×1.25
=240,000(円)+100,000(円)
=340,000(円)

2,000(円)×60(時間)×1.25+2,000(円)×20(時間)×1.50
=150,000+60,000
=210,000円

給与額=340,000(円)+210,000(円)=550,000(円)
給与額は、所定労働時間内の給与と法定労働時間外の給与(残業代)を合計した550,000円になります。

法定労働時間外の労働が深夜労働となる場合

2,000(円)×160(時間)=320,000(円)

2,000(円)×40(時間)×(1+0.25+0.25)+2,000(円)×20(時間)×1.25+2,000(円)×20(時間)×1.50
=120,000(円)+50,000(円)+60,000(円)
=230,000円

給与額=320,000(円)+230,000(円)=550,000円

このケースも給与支給額は550,000円で深夜労働が所定労働時間内で、法定労働時間外の労働は深夜労働でない場合と同じですが、残業代は210,000円と230,000円で違いがあることがわかります。

残業代の計算では労働時間のカウントも大事

残業代を計算する上で非常に大事な要素は、基礎賃金の金額と労働時間です。労働時間は、基礎賃金の計算にも関わってきますので、最も大事な要素と言えるでしょう。労働時間を計算する際、次の点に注意する必要があります。

労働時間は記録に基づき計算する

労働時間の計算は、タイムカードなどの記録に基づき行われます。別の言い方をすると、記録に基づかない計算は意味を持ちません。もし自分の労働時間の計算について不服がある場合、「自分が業務で使用しているパソコンのログオン、ログオフ時間」など、根拠になる記録を自身で保有する必要があります。

労働時間は切り捨てて計算しない

事務作業の簡便化などを理由に、労働時間の端数などを15分以内は切り捨てる等のルールがある会社もありますが、原則として労働時間は切り捨てて計算しません。1分からでも賃金や割増賃金は発生しますので、労働時間の意図的な切り捨てなどの処理はトラブル時には違法とみなされることがあります。

自発的な労働時間はカウントできない

業務開始が9時からと労働規則で定められている中、8時半から出社して仕事をしているとしても、労働時間にカウントすることはできません。休憩時間中の作業や、サービス残業、自発的な休日出勤は労働時間としてカウントできない可能性が高いので注意してください。よほど慢性的にそれらが行われているブラック企業と思われるケースでは、労基署などの指導によってカウントされる場合があります。

また、朝礼など会社都合で早い時間の出勤を指示・命令された場合には、労働時間としてカウントすることが可能です。この場合、定時に退社したとしても1日に8時間を超過する労働を行っていれば残業代は発生します。

労働時間には休憩時間はカウントできない

会社などに束縛される拘束時間は、「労働時間」と「休憩時間」に大別されます。このうち、賃金が発生するのは拘束時間中の労働時間のみになり、休憩時間は含まれません。

工場などでは、設備点検のために残業前に休憩時間が法律上の最低基準より長く設けられることがあり、その場合の拘束時間は残業時間以上に長くなることがあります。ですが、あくまで残業代などの賃金が発生するのは、労働時間だけになりますので注意してください。

残業代の扱いは働き方改革でこう変わる!

2019年4月以降、働き方改革の一環である法制度の変更によって、残業代の扱いも変わることを厚生労働省が発表しています。残業に関して次のような変化が生じることによって、基本的に残業時間は削減される方向になると予想されます。

特に、中小企業においては所定時間外の労働時間における、60時間以上の残業についての割増率が実質引き上がるため、残業の削減や業務の効率化が一層求められるようになります。

残業時間(時間外労働)の上限規制が行われる

労働者の過労死等が問題になったこともあり、残業時間を原則月45時間かつ年360時間以内、繁忙期などの特例時で月100時間未満、年720時間以内とするという上限が設けられます。違反時には重い刑事罰が適用されることになりました。(中小企業は2020年4月1日施行予定)

時間外労働の上限規制がすごいすごいと言われる理由

「割増賃金率」の中小企業猶予措置が廃止される

従来、中小企業では「月の残業時間が60時間を超えた場合、割増賃金の割増率を50%以上にしなければならない」という内容が猶予されていましたが、これが撤廃されることになります。(2023年4月1日施行予定)

残業代の計算を自分でも正しくできるようにしておくことが大事

残業代の計算は非常に複雑で、場合によっては経理や人事などの担当者が認識を間違えている場合もありますので、ここで紹介した残業代の計算例を参考に自分でも計算してみることをおすすめします。もしも給与明細の数字と自分の計算した結果が違う場合は、一度担当者に確認してみましょう。

また、意図的でも意図的でなくとも、残業代の計算の間違いが続いていたことが発覚すると、最悪の場合は企業や責任者に罰則が適用されることがあります。