最低賃金以上かどうかの計算方法・自分の賃金を確認しよう

最低賃金の計算が正しくできると、自分の賃金が地域や産業の基準に合わせて最低賃金以上であるかを確認することができます。違法な労働環境でないことを確認するためにも、最低賃金の基準を満たしているかを確認するのは大切なことです。最低賃金について基本的な情報を紹介します。

最低賃金以上かどうかの計算方法・自分の賃金を確認しよう

最低賃金について正しく理解しよう

時折ニュースなどで話題になる「最低賃金」は、私たちの所得と大きく関わっている重要な情報です。しかし、普段は給料を月給でもらっている人などは、時給でもらっている人と比較すると最低賃金についてきちんと考えていないことも多いものです。

最低賃金について正しく理解していないと、思わぬところで損をしていることもあります。適正な賃金をもらえないまま働いている可能性がある場合などは、一度計算してみることが大切です。最低賃金について正しく理解し、自分の給料明細などを見直してみましょう。

最低賃金とはどんなもの?

最低賃金の計算に触れる前に、最低賃金とはどんなものなのか、基本的なことを確認しましょう。最低賃金の意味やその対象となる賃金などについて紹介します。

最低賃金は労働者の生活安定など賃金の最低額を保障したもの

最低賃金は、労働者の生活安定や労働条件の改善を目的に賃金の最低金額を保障したものです。最低賃金法によって定められた制度により、国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないことが定められています。

そのため、使用者は雇用契約時に定めていた賃金が最低賃金の改定によって最低賃金額を下回ってしまった場合でも、賃金の改定に応じる必要があります。

なお、最低賃金が支給されていることと、ブラック企業であることとは何の関係もありません。ただし、最低賃金以下の金額が支給されている場合は、企業がブラックであるかどうかに関係なく違法になりますので、働き甲斐や労働時間とは関係ないことに注意してください。

最低賃金の対象となるのは毎月支給される賃金

実際に支給されている賃金から手当や残業代などを除外して計算

最低賃金の対象となる賃金は、「毎月支給される賃金」です。これはつまり、月に支給される賃金に基づいて計算するということでもあります。具体的には、実際に支給されている賃金から次のものを除外して計算します。

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  • 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  • 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  • 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  • 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

最低賃金以下の金額支給は使用者に30~50万円の罰金が科せられる

国が制定した最低賃金額より低い賃金が支給されている場合、労働者、使用者双方の合意の上だとしても法律によって無効とされます。違反時には30~50万円以下の罰金が罰則となっています。

労働者が労働基準監督署や弁護士などの外部機関に相談して発覚・指導が行われたり、もしくは税務署の監査などから判明したりすることがあります。

最低賃金の現状

最低賃金の現状

生活に必要となる費用は地域によって異なるため、最低賃金も地域によって違いがあります。そのため、ある地域では最低賃金未満でないとしても、別の地域では最低賃金未満になることもあるので注意しましょう。

厚生労働省から発表されている「地域別最低賃金の全国一覧」によると2019年現在、最低賃金の全国平均は874円で、最高が東京都の985円、最低が鹿児島県の761円となっています。地域別最低賃金とは別に産業別最低賃金、特定(産業別)最低賃金も定められており、どちらかの高い方を適用することになっています。

全国平均額は874円ですが、平均額を上回っている都道府県は8都道府県しかなく、全国平均を上回る都道府県は大都市近辺に集中しています。

【平成30年度地域別最低賃金改定状況(注1)】

都道府県名 最低賃金時間額【円】 都道府県名 最低賃金時間額【円】

北海道

835

滋賀

839

青森

762

京都

882

岩手

762

大阪

936

宮城

798

兵庫

871

秋田

762

奈良

811

山形

763

和歌山

803

福島

772

鳥取

762

茨城

822

島根

764

栃木

826

岡山

807

群馬

809

広島

844

埼玉

898

山口

802

千葉

895

徳島

766

東京

985

香川

792

神奈川

983

愛媛

764

新潟

803

高知

762

富山

821

福岡

814

石川

806

佐賀

762

福井

803

長崎

762

山梨

810

熊本

762

長野

821

大分

762

岐阜

825

宮崎

762

静岡

858

鹿児島

761

愛知

898

沖縄

762

三重

846

全国加重平均額

874

支給賃金が最低賃金額以上かを確認する方法

会社から支給されている賃金が最低賃金額以上になっているかを確認するためには、以下の手順を踏みます。もらっている賃金が最低賃金額以上かどうかを確認する方法を知り、自分でチェックできるようにしておきましょう。

最低賃金の対象となる賃金額を計算する

ここで、時間給、日給、月給、出来高払制その他請負制の最低賃金額の計算方法例を見てみましょう。自分の給与体系に応じた計算をしてみてください。

時間給の場合

深夜労働の割増賃金などは除いて

時間給の場合は、時給をそのまま最低賃金の計算に使えます。ただし、法律上除外される手当や深夜労働の割増賃金などは除いて考えましょう。

  • 時給850円のアルバイトなら、対象賃金は850円
  • 22:00~5:00勤務のアルバイトで、時給1,100円(深夜労働:25%割増賃金)

1,100(円)÷1.25=880円が対象賃金

日給制の場合

日給制の場合は、1時間あたりの給与から最低賃金の対象になる賃金を計算します。「日給÷1日の所定労働時間」をもとに計算しますが、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、日給そのままで計算します。法律上除外される手当は含めません。

  • 日給8,000円、1日の所定労働時間が8時間のアルバイトなら、対象賃金は1,000円
  • 日給11,000円で特定最低賃金の適用内の場合、対象賃金は11,000円(日給)

月給制の場合

月給制の場合も、1時間あたりの給与で対象賃金を計算します。計算式は「月給÷1ヶ月平均所定労働時間」で計算しますが、「1ヶ月平均」の所定労働時間であることに注意してください。1ヶ月の間、曜日や祝日、また月の日数によって労働時間は毎月異なってきますので、前年度の実績など妥当と思われる基準で平均的な所定労働時間を計算します。この時、やはり割増賃金が発生している場合の給与や法律上除外される手当は含めません。

  • 月給30万円、月の所定労働時間が180時間の場合は

300,000(円)÷180(時間)=約1,667円が対象賃金

年俸制の場合

年俸制の場合も、計算の方法は同様に時間あたりの給与から計算します。総労働日数、総労働時間から平均を計算し、年俸から除外するべき手当を除いた金額で計算するようにしましょう。

出来高払制その他の請負制の場合

出来高払制その他の請負制の場合

出来高払制その他の請負制の場合、発生した賃金の総額を、当該賃金計算期間に発生した総労働時間数で除して時間あたりの金額に換算します。計算式は「発生した賃金総額÷総労働時間」となります。

  • 月給15万円、出来高払い12万円、労働時間190時間の場合

{150,000(円)+120,000(円)}÷190(時間)=約1,421円が対象賃金

  • 請負額120万円で、4ヶ月間(対象期間中の労働時間800時間)の労働を行った場合

1,200,000(円)÷800(時間)=1,500円が対象賃金

複数の給与体系が組み合わせられている場合

複数の給与体系の組み合わせによる場合も、該当する賃金総額から時間あたりの金額を算出することによって、最低賃金を計算できます。

  • 基本給(日給)が1万円で、月ごとに発生する職務手当が2万円、1日の所定労働時間が8時間、1ヶ月の所定労働日数が20日の場合

{10,000(円)×20(日)+20,000(円)}÷{8(時間)×20(日)}=1,375円が対象賃金

2.適用される最低賃金額と比較する

派遣社員の場合

前出の各都道府県の最低賃金額と比較し、最低賃金額になっているかを確認しましょう。最低賃金は労働者の所属する事業所の所在地によって決定し、本社や労働している地域にはよりません。そのため、東京に出張・出向している場合だとしても所属している地域の最低賃金額が適用されます。ただし、派遣社員の場合は、派遣元における最低賃金ではなく、派遣先の地域の最低賃金が適用されます。

実際の最低賃金の計算例

ここからは、少し細かい情報に基づいて最低賃金を計算、確認してみましょう。実際に計算する場面では、最低賃金の計算に必要と思われる内容が、給与明細などにほぼ記載されています。

最低賃金の計算例1

最低賃金の計算例1

神奈川県のA株式会社で働く○○さんの場合の最低賃金の計算例を紹介します。精勤手当、通勤手当は賃金の計算上除外されます。

  • 年間所定労働日数:230日
  • 月給:175,000円(基本給145,000円、精勤手当10,000円、通勤手当20,000円)
  • 所定労働時間:8時間/日
  • 対象賃金(年額)={175,000(円)-30,000(円)}×12=1,740,000(円)
  • 対象賃金(時間あたり)=1,740,000(円)÷{230(日)×8(時間)}=約946円

神奈川県の最低賃金は983円ですので、この場合は最低賃金以下になります。また、最低賃金を基準にして考えると、983(円)×8(時間)×(230(日)÷12(ヶ月))=約150,727(円)のようになりますので、神奈川県で働く○○さんは手当を除いた給与が150,727円以上なければなりません。

最低賃金の計算例2

佐賀県のB株式会社で働く××さんは、長期出張のため東京で3ヶ月働いています。この場合の××さんの最低賃金の計算例を紹介します。通勤手当ならびに出張手当は計算上除外されます。

  • 年間所定労働日数:220日
  • 月給:285,000円(基本給220,000円、通勤手当30,000円、出張手当35,000円)
  • 所定労働時間:8時間/日
  • 対象賃金(年額)={285,000(円)-65,000(円)}×12=2,640,000(円)
  • 対象賃金(時間あたり)=2,640,000(円)÷{220(日)×8(時間)}=1,500円

佐賀県の最低賃金は762円ですので、この場合は最低賃金以上となり、最低賃金上の問題はありません。手当の内容や種類によっては、賃金額に含めて計算することもあります。この例では出張手当が、出張の際の実費ではなく固定で金額が定められているような場合、手当が賃金額の計算に含まれることがあります。

最低賃金の計算例3

東京都のベンチャー企業C株式会社で働く△△さんの場合の最低賃金の計算例を紹介します。通勤手当は除外されますが、役職手当は所定内賃金と考えられるため除外せずに計算します。

  • 年間平均所定労働日数:270日
  • 月給:240,000円(基本給170,000円、役職手当40,000円、通勤手当30,000円)
  • 所定労働時間:8時間/日
  • 対象賃金(年額)={240,000(円)-30,000(円)}×12=2,520,000(円)
  • 対象賃金(時間あたり)=2,520,000(円)÷{270(日)×8(時間)}=約1,167円

東京都の最低賃金は985円ですので、この場合は最低賃金以上ですので問題はありません。ただし、社内の事情などで役職を外され、給与に変動がない場合には、次のような計算になります。

対象賃金(年額)=170,000(円)×12=2,040,000(円)
対象賃金(時間あたり)=2,040,000(円)÷{270(日)×8(時間)}=944円

944円で最低賃金以下になってしまいます。降格時に基本給が上がることは難しいと思われますので、実務上は「業務手当」など所定内賃金に含まれる手当を作り、最低賃金以上にする必要があります。

最低賃金の計算に含む所定内賃金と含まないもの

所定内賃金

最低賃金の計算で使われるものに「所定内賃金」と呼ばれるものがありますが、これは基本給と一部の手当を含めたものを言います。所定内賃金には明確な定義がないため、会社によって微妙に内容やニュアンスが違うことがありますが、基本的には「所定労働時間における労働の対価として考えることができる賃金」という意味合いになります。

所定内賃金に含めるのは職務手当・役職手当・資格手当

所定内賃金に含める手当としては、「職務手当」「役職手当」「資格手当」などが該当します。基本的に、「平常の業務に属して常時発生すると考えられる固定額の手当」は該当すると考えることができます。職務や役職、資格などはその立場で業務を行う上で密接に関係するため、所定内賃金に算入します。

所定内賃金に含めないのは業務で常時発生する固定額以外の手当

最低賃金法に基づいて、最低賃金の計算に含めない手当も決まっていますが、その多くは「平常の業務に属して常時発生すると考えられる固定額の手当」に該当しないものです。

しかし、「精皆勤手当」「通勤手当」「家族手当」に関しては除くと明記されていますので注意しましょう。実際の勤怠状況や通勤状況などに関わらず固定支給されている場合は、実情などから第三者の外部機関に判断が委ねられる場合もあります。

試用期間中の従業員などの場合は最低賃金を減額できる

試用期間中の労働者

最低賃金は原則として雇用形態に関わらず、全ての従業員に適用されますが例外もあります。試用期間中の従業員や精神または身体の障害により著しく労働能力の低い従業員、軽易な業務・断続的労働に従事する従業員、職業訓練を受けている従業員については、都道府県労働局長の許可を受けて、最低賃金を減額することができることになっています。

ただし、許可を受ける必要がある以上、一般的に妥当であると判断される内容でなければ、労働者の生活を守るという最低賃金制度の性質上も減額は認められません。労働者の状況に応じて実際の減額率の上限が定められ、その間で調整していくことになります。

この他、18未満と65歳以上の労働者は「特定(産業別)最低賃金」の対象外となっています。しかし、地域別の最低賃金は適用されますので注意が必要です。

最低賃金の計算は必ずしておこう

自分の給与について関心のない人はいませんが、金額が多い少ないだけでなく、最低賃金と比較してどうかということは必ず確認しておくべきです。最低賃金の計算は難しい部分もあるものの、給与明細を見れば計算に必要な情報のほとんどは記載されているので、ここで紹介した計算方法を参考にして、最低賃金と比べて実際の受給額がどうかを是非確認してください。最低賃金と自分の賃金を比較して、必要なら労働基準監督署などに相談しましょう。