キャッシュレス化のメリットやこれからの課題を考えてみよう
キャッシュレス化が少しずつ進んでいますが、日本はまだまだこの分野では後進国です。キャッシュレス化の背景や、そのメリット、問題点などを考えつつ、キャッシュレス社会へどのように対応していくべきか考えてみましょう。
着々と進行するキャッシュレス化についていけてますか
日本はキャッシュレス化が遅れていると言われていますが、隣の韓国ではもう支払いの90%程度がカードや電子マネーなどで行われ、現金決済は少なくなっています。日本政府もキャッシュレス化を推進していますが、「日本の風習に合わない」「災害時への備えが不十分」など反対意見もあります。あなたはどの程度キャッシュレス化に対応しているでしょうか。
大学生の酒井君は、このキャッシュレス化への展望は金融機関への就活をする学生にとって大事なテーマだと感じ、経営コンサルタントのK・エーイ氏に意見を聞いてみることにしました。
キャッシュレス化はどのくらい進んでいますか
―エーイさん、おはようございます。今日は「キャッシュレス化」について伺いたいんです。
はい、いいですよ。キャッシュレス化もずいぶん進んできた感じがしますよね。
―そうなんですか?僕はあまり実感ないですけど。
じゃあ酒井君、普段現金を使わないで決済しているものってどのくらいありますか?
―そうですね、ネットショッピングはクレジットカードやデビッドカードですし、電車や地下鉄は電子マネー、そういえば学食もプリペイドカードですね。最近はコンビニもスマホ決済が多くなりました。こう考えるとあまり現金決済してない気がしてきました。
そうでしょう?それだけ、キャッシュレス化は身近になってきているんですよ。正直に言って、私も最近はATMに行くのが月に1~2回程度になってきました。現金がなくても結構大丈夫なものなんですよね。
―それだけキャッシュレス化が進んでるんですね。でも、日本ってこの分野は遅れているんでしょう?
そうですね。日本はまだまだ全決済の20%程度しかキャッシュレス化が進んでいないと言います。韓国では90%近くがキャッシュレス決済ですし、スウェーデンでは98%ほどが現金決済以外の方法になっているそうです。
―うわー、日本って全然進んでいないんですね。でも、キャッシュレス化を推進する理由っていったいどこにあるんでしょうね?とにかく進めればいいってわけでもないような気がします。
キャッシュレス化のメリットはとても多い
まあ、とにかくキャッシュレスにすればいいとは思いませんけど、メリットはとても多いと思いますよ。まず、何と言ってもスピーディーです。
―そうですね。キャッシュレスにすると小銭数えたり探したりする必要がなく、すぐに決済が済みますから、混雑なども抑えられますよね。電車の改札とかでは本当に便利だと感じさせられます。
まったくです。ちょっと学生には想像つかないかもしれないんですが、昔は何でも現金決済が主流だったんですよね。マンガみたいな話ですが、本当にアタッシュケースに数千万円の現金を詰め込んで取引先に行くということが行われていたんです。
―へえ~。なんだかすごい話ですね。想像できないです。
そうでしょ?だから、途中で襲われないよう、また担当者がお金を持って逃げないように最低でも2人1組でとか色々ルールがあったんですね。
―なるほど、大きなお金を持ち歩くとそういうことも考える必要があるんですね。
さらに、取引先では、その持ってきた現金の確認を行う必要があるわけです。2000万円なら、2000枚の1万円札があるかを実際に数える必要がある。これが結構時間かかるんです。1枚でも不足していたら大事ですから。お金を数えるのが速くて正確な社員は尊敬されていました(笑)。
―なんだか聞いているだけで緊張してきました。キャッシュレス化が進むと、こういうこともしなくて済むってことですね。
はい、そういうことですね。まあ、今は現金でも振込が主になりますからこういう状況は減りましたけどね。今後はキャッシュレス化が進んで、さらに速くなるんじゃないでしょうか。
―それにキャッシュレスはセキュリティ上も安心ですしね。
そうです。キャッシュレスにすることで、セキュリティ的にも安心という点があります。多額の現金を持っていると思われると危険もありますからね。また、お店などもレジにお金があまりなければ狙われることも減るでしょう。
―そうか、キャッシュレスになるとお店側も現金の管理が楽になりますね。
はい。加えて、財布はロックできませんが、スマホやカードなどは遠隔でロックもできるし使用を止めることもできますから、いざという場合にも被害を最小限にできます。また、キャッシュレスは使用の記録が残るので、家計管理の助けになるのはもちろん、紛失や盗難時の追跡調査などにも使えます。
―おお、キャッシュレス社会って素晴らしい気がしてきました。
もっと言えば、キャッシュレス社会になると紙幣や硬貨を発行するためにかかるコストを削減できます。これは国全体にとってもいいことですよね。
―そうですね。1円玉は1円以上の価値があるって言いますものね。
また、キャッシュレス社会では現金と違ってお金を引き出す必要がありませんから、ATMで手数料が不足することもありませんし、持ち合わせがないということもなくなります。そのため、消費が促進されるということも政府は見込んでいるフシがありますね。
―なるほど。確かにそうなったら余計な手数料を気にしたり、お金をおろし忘れて週末の連休に突入してしまった場合でも大丈夫ですね。キャッシュレスのメリットは本当にたくさんあるんですね。
キャッシュレス化に反対する声もある
―でも、そんな素晴らしいキャッシュレス化なのに、どうしてなかなか進んでいないんでしょう?
考え方は人それぞれというのはもちろんなのですが、特に高齢の世代においてキャッシュレスに「慣れていない」というのが大きいのかなと思います。人口を考えても大きな割合を占めますしね。若い世代ではそうでもないんですが。
―確かに、高齢の方ってあまり電子マネーやクレジットカードを使っている印象はないですね。
高齢の方々って、やっぱりしっかり自分の財産を管理してきたんだと思うんですよ。だから、目に見えないところでお金のやり取りが行われているのが感覚的に気持ち悪いようです。自分でいくら使ったかが財布を見てわかるのが楽なんですね。
―わかる気はしますが、僕の世代の感覚としてはアプリで残高見るのもそれほど変わらない気がします。
そうかもしれませんね。これも時代が変われば変わっていくと思います。あと、他には「浪費しそう」という声が女性で多いようですね。
―うーん、そうですね。確かに女性は男性より浪費しそうなイメージがあります。
実際はわからないですけどね。男性の方が趣味にお金かける傾向がありますし。でも、女性は割と浪費しやすいと自分のことを思っていて、ブレーキをかけたいと思う傾向があるようです。そのため、使いたい時に使えてしまうキャッシュレスはちょっと怖いみたいですね。
―なるほど。そういう見方もあるんですね。
また最近は、停電の際にはキャッシュレスは使えないという問題が浮き彫りになってきました。地震や台風などで電気やネットワークが遮断された状況では現金以外は利用できなくなります。
―それで「日本にはキャッシュレスは合わない」という声もあるんですね。
はい。これも確かにもっともな意見で、そのために韓国やスウェーデンほど極端なキャッシュレス社会にはならないんじゃないかと私は予想しています。
キャッシュレス化が進んできた背景には通信技術の発展がある
―それにしても、どうしてキャッシュレス化が進んできたんでしょうか?
そうですね、やはり一番の理由はインターネットやICカード、IoTデバイスなどの通信技術の発展でしょうね。これが従来の貨幣流通の物理的ネットワーク以上に高速化・拡大化したのが大きいですね。
―確かに、細かい仕組みは正直わからないのですが、これを使えば決済ができるというものが増えてきました。たくさんの種類があって便利ですよね。
キャッシュレス化の良いところは、デジタルであるということなんです。アナログだと細かい数字の扱いが難しく、かえって煩雑になる。お米券や図書券、商品券などは500円からありますが、金額が大きくなると出すのも大変で使いにくいんです。
―なるほど。
また、昔のテレホンカードや、今のQuoカードのようなものは、どうしても残金がわかりにくいんですよね。そういう意味で、デジタル化された今のキャッシュレスは使用面でも管理面でも便利で、だからこそ使用が広がっているんだと思います。
―そういえば、キャッシュレスでも送金とかできますし、そういう面でも便利ですね。
そうですね。キャッシュレスは様々なサービスにおいて互いに送り合ったりすることが可能になっています。これがプレゼントになったり、またクラウドファンディングなどに貢献しているという話も聞きますね。
―他にはどういう背景が考えられますか?
あとは、国民がこういったデジタルツールを扱うことに慣れてきたということや、インフレが進んできたことなどがあるでしょうね。
―インフレ?今は世の中デフレだデフレだ言ってますよ。
すみません、説明が不足していましたね。昔と比べたら、物価は少しずつ上がっています。これは経済が成長していけば当然に起こるものですから、今言われているデフレの話とは別です。今から40年くらい前は、大卒の初任給って6~7万円くらいだったんですよ。
―ええ!?信じられない!それで生活できるんですか?
当時は物価が安かったからですね。今は徐々にいろんなものが高くなり、自販機の缶コーヒーも昔は100円だったのに120円が普通です。インフレが進むと、物を買うのに多くの硬貨や紙幣が必要です。でも、持ち歩けるお金には限界があります。
―だから、キャッシュレスが進んでいくと。
正解です。昔は日本円には「銭」というお金もありましたが、もう小さすぎて為替の世界でしか使われなくなっています。よほど今の通貨が実体経済と合わなくなれば通貨価値の見直しがあるかもしれませんが、インフレに対しては、当面キャッシュレスで対応するのがメインになるでしょうね。
キャッシュレス化は新たなビジネスになる
―キャッシュレスになることで、新たなビジネスチャンスが生まれるという人もいるみたいなんですが、本当にそうなるんでしょうか?ちょっとイメージがわきません。
そうですか?世間を騒がせている「仮想通貨」もキャッシュレス社会ならではの概念ですよ。
―え?そうなんですか?
通貨というのは、多くの人がそれによる取引を認めていて、価値を共有できていればどんな形でも成り立ちます。今のキャッシュレスの仕組みを応用すれば、仮想通貨だけでなく、地域通貨や独自の通貨だって簡単に作れてしまうんです。
―それはすごい!けど、それがビジネスになるってことなんですか?
たとえばですが、ボランティア用の通貨ができたとしたら、隣の家の草むしりをしたらそれが収入になります。もちろん、普通の取引をしたり換金したりはできませんが、その収入で、同じ通貨を使っている人が自作したパンをもらえる、というような仕組みを作れます。
―ふむふむ、それはわかります。でも、これってビジネス?
広い意味ではビジネスですよ。また、この仕組みに使われる通貨は日本円で購入できる、または日本円と交換できることになっていれば、それでビジネスになってしまうんですね。
―よくわからなくなってきました。最初から「円」で取引したらいいのに。
通貨を作るメリットは詳しくは語りませんが、価値の基準を別におくこともできますし、また限られた範囲でしか消費できないことでその範囲の消費を活性化させるなどの効果もあります。歴史を見ても、様々な国が自国通貨を作りましたが、それだけメリットがあるからなんです。
それでもキャッシュレス決済ができない場所はまだまだ多い
―キャッシュレス化が進むといいなとは思うのですが、実際使える場所がそこまで多いわけではないですよね?
そうですね。小さい商店などは仕方ない面があると思うのですが、病院や駐車場、公共交通機関などはそろそろキャッシュレス決済が簡単にできるようにしてほしいですね。
―病院って確かにいざという時に行くのですが、いくらかかるかもよくわかりませんし、現金以外での決済ができないって困りますね。体の不調と合わせてダメージが2倍になりそう。
ははは。病院は保険の適用外の支払いについてはカード決済できるところも少なくないですよ。さすがに入院したり手術したりすると数十万円~数百万円になる場合もありますから。現金だと大変です。
―保険の適用可否で違ってくるんですね。知らなかった。
病院は診療報酬の仕組みによる部分があるため特殊な例ですが、役所の様々な手続きなどもう少しキャッシュレスになったら便利なのにと思うものは多いですね。学校関係のお金の支払いなど、子供にあまり大きなお金を持たせるべきじゃないと思いますし。
―キャッシュレスが広がるためには、決済できる範囲を広げていく必要があるんですね。個人のツールは割とすぐ手に入るけど、お店側はそうでもないってことなのかな。
キャッシュレスのサービスによっては手数料や設備の設置費用など必要になってきますからね。国も支援などしているようですが、少しずつというところでしょう。
―キャッシュレス化が進むことによって、いろんなことが便利になればいいですね。今回はとても知見が広がった気がします。就活にも活かせそう。エーイさん、今日もいろんなお話をありがとうございました。
キャッシュレス社会が進むことはメリットが大きい
社会のキャッシュレス化は、様々なメリットがあるため進展を期待したいところです。ただし、現金が必要な場面もまだまだ多く、災害時などの備えについて考える必要があるなど、今までとは違ったバランス感覚も必要となります。キャッシュレス社会にどう対応するか、またキャッシュレス社会ならではの生活やビジネスなども考えてみてはいかがでしょうか。