退職金にかかる所得税を計算してみよう
退職金には所得税や住民税といった税金が課税されるのでしょうか?多くの人にとって、退職は人生で何度も経験するイベントではないため、退職金についてもよく知らない人が多いです。しかし、退職金にかかる税金の仕組みを正しく理解し手続きをすることで、還付金を受け取れる可能性もあります。
退職金に所得税はかかるのか?
退職金とは、文字通り「退職した労働者に支払われる金銭」を指します。支給金額は各企業の就業規則や退職金制度に定められており、企業の規模や業種、勤続年数によっても大きく異なります。
多くのビジネスパーソンにとって、退職は人生で何度も経験するイベントではありません。そのため、退職金の制度や受け取り方について十分に理解できている人は少ないといえるでしょう。特に、退職金にかかる税金に関しては切実な問題であるといえます。退職金に対して所得税がかかるのか、そしてかかるのであればその税率はどのように計算されるのかなどを具体的に解説します。
「退職金」の定義
退職金は税法上「退職所得」と呼ばれていますが、本記事では便宜上「退職金」として統一して表記します。
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(これらを「退職手当等」といいます。)をいいます。
例えば、勤めていた企業を退職した際に支払われた特別な給与はもちろんのこと、勤め先の企業が倒産して給与未払いが発生した際に国から立て替えて支払われる未払い分の賃金も、退職金として定義されています。ただ、一般的にはある企業への勤務関係が終了した際に一時的に支給されるもので、継続して支給されないという点を退職金の特徴として頭にいれておけば問題ないでしょう。
退職金に所得税はかかる
退職金にも所得税はかかります。退職金は勤続年数、つまり毎月の勤務への対価として支払われるという特性から、毎月の給与と似ている点もありますが、分けて考える必要があります。そのため、支払われた給与がそもそも退職金に該当するのか、それとも通常の給与に該当するのかをはっきりさせておく必要があります。
退職金の所得税率については、通常の給与に対する所得税率と異なる税制が敷かれているので、次項で詳しく解説します。
退職金にかかる所得税率の計算方法
退職金の所得税率の計算には、独自の計算式が用いられます。なぜなら退職金は定年退職後に受け取る人が多くを占め、使用用途は一般的に老後の生活資金となることから、多額の税金を引かれてしまうと退職者とその家族の生活がひっ迫する恐れがあるためです。このような配慮から、退職金にかかる所得税率は通常の給与所得にかかる所得税率と比べて優遇されています。それでは、退職金の所得税率の計算方法を具体的に確認していきましょう。
まず、退職金の収入金額を確定する
まずは、以下の計算式を使って、課税対象となる退職所得の金額を算出します。
課税対象の計算式
(収入金額-退職所得控除額)×2分の1=退職所得の金額
計算式で算出された退職所得の金額に対して、定められた所得税率を実際に掛けることによって、退職金にかかる所得税が算出できます。上記の計算式を使用するためには「収入金額」を確定させる必要があります。
通常、退職金の手取り金額は一定額が源泉徴収されています。収入金額とは、手取り金額ではなく源泉徴収される前の金額と定義されています。そのため「手取金額+源泉徴収額=収入金額」という計算式のとおり、収入金額は退職金の手取り金額に源泉徴収額を足して算出します。これで退職所得の金額を算出するために必要な数字が出そろったことになります。
退職金から引かれる退職所得控除額を確定する
「退職所得控除額」は、勤務先での勤続年数に応じて金額が変わってきます。退職所得控除額の算出方法を下記の表にまとめたのでご参照ください。
退職所得控除額の計算式
- 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(80万円未満の場合は、80万円)
- 勤続年数20年以上:800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
退職金にかかる所得税を計算する
上記の課税対象となる退職所得から、退職所得控除額を差し引いた金額を半分にしたものが、退職所得の金額となります。退職金にかかる所得税は自分の退職所得の金額に該当する税率を掛けて、その後に控除金額を差し引きします。なお、退職所得の金額に該当する税率と控除金額は、国税庁のホームページに公開されている「所得税の速算表」(表1)において確認できます。また、復興特別所得税については、所得税の金額に2.1%を掛けて算出します。
表1.所得税の速算表(平成27年分以降)
課税される 所得金額 |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超え 330万円以下 |
10% | 97,500円 |
330万円超え 695万円以下 |
20% | 427,500円 |
695万円超え 900万円以下 |
23% | 636,000円 |
900万円超え 1,800万円以下 |
33% | 1,536,000円 |
1,800万円超え 4,000万円以下 |
40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
退職金にかかる所得税率の具体的な計算例をみてみよう
それでは先程説明してきた算出手順に沿って、退職金にかかる所得税率の具体的な計算例を挙げます。源泉徴収前の退職金を2,000万円、勤続年数を22年3ヵ月と設定します。勤続年数の端数は切り上げとなるので、22年3ヵ月は23年として計算されます。
1)収入金額
退職金としてもらった2,000万円は源泉徴収前の金額なので、そのままの2,000万円が収入金額となります。
2)退職所得控除額
勤続年数が20年を超えていることから、退職所得控除額の算出方法より3年に70万円をかけた金額に800万円をプラスすることで算出されます。
8,000,000円+700,000円×(23年-20年)=10,100,000円
3)退職金にかかる所得税の算出
1)で算出した収入金額から、2)で算出した退職所得控除額を差し引いた金額に2分の1をかけたものが、退職所得の金額となります。
(20,000,000円-10,100,000円)×2分の1=4,950,000円
算出された退職所得金額4,950,000円の該当する所得税率と控除金額を、上記の「所得税の速算表」(表1)から確認します。「330万円を超え 695万円以下」に該当するため所得税率は20%、控除金額は427,500円であることがわかります。
退職所得の金額の4,950,000円に20%の所得税率を掛けて、その後に控除金額である427,500円を差し引きします。さらに復興特別所得税は、所得税の金額に2.1%を掛けて算出します。算出された574,312円が、退職金にかかる所得税の税額となります。
退職金にかかる所得税の税額
所得税の金額・・・4,950,000円×20%-427,500円=562,500円
復興特別所得税額・・・562,500円×2.1%=11,812円
合計・・・562,500円+11,812円=574,312円
退職金には住民税もかかることを覚えておこう
退職金には所得税以外にも、もう1つかかる税金があるのをご存じでしょうか。退職金にかかる「住民税」とは、居住地の都道府県と市区町村に納める2つの地方税を合計した税金のことを指します。住民税を割り出す式は、以下のとおりです。
住民税の計算式
都道府県民税(4%)+市区町村民税(6%)-調整控除額=住民税額
退職金受け取りの際に還付金をもらえる場合があることも覚えておこう
退職金の受け取りの際に「退職所得の受給に関する申告書」を記入のうえ会社に提出している人に関しては、確定申告を行う必要はありません。しかしながら、一定の条件にあてはまると確定申告をすると還付金を受け取れる場合があります。
年の途中で退職した場合
年の途中で退職し、同年内に再就職をしなかった場合、在職中に受け取った給与から源泉徴収された所得税が多すぎることがあります。なぜなら退職した年の所得が少ないと、退職後に支払いをした国民年金保険料や医療保険料といった社会保険料や生命保険料、配偶者控除、扶養控除、基礎控除などが控除できていないことがあるからです。
年の途中で退職した人は退職所得を確定申告することによって、差し引けなかった所得控除が退職所得から引かれます。つまり、退職金から控除された所得税の還付金を受け取れるのです。
不動産所得や事業所得があり赤字の場合
マンションの部屋を所持しているなど不動産所得があり、退職した年の不動産所得が赤字となった場合や、退職後に自営業をスタートさせ、その事業所得が赤字となった場合に確定申告を行うことで、退職所得と損益計算をできます。つまり、不動産所得と事業所得で出てしまった赤字を、退職所得から差し引けるのです。
退職所得の受給に関する申告書が未提出の場合
退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなかった人は、退職金の支払金額の20.42%が源泉徴収されます。退職金を受け取った本人が確定申告を行うことによって、徴収されていた所得税額が精算されます。
退職金にかかる所得税は退職前から調べておこう
退職金について、退職後にただ受け取るものとして受け身になってしまうのではなく、定義とかかる税金の仕組み、制度の概要をよく理解しておく必要があります。事前にしっかりと調べておけば、少なくとも損をすることはありません。退職金にかかる所得税に限らず、あらゆる還付金などの納税者がお金を受け取れる制度は、基本的に自ら調べて動かないと恩恵を受けられません。
自分が還付金を受け取れる対象であるのかをはっきりとさせて、受け取れる場合はいつ、どのような対応をとる必要があるのかを把握し、適切な手続きを進めましょう。