勤務間インターバル制度の導入は働き過ぎ日本人の救世主になる
勤務間インターバル制度が働き方改革の中で議論され、その導入推進が閣議決定されるようになりました。終業と始業の間のインターバルを確保するよう規定することを意味する制度ですが、制度のメリットや問題点、働き方についても考えてみましょう。
勤務間インターバル制度がもたらす仕事の新しい考え方
「日本人は働き過ぎである」と言われることが多いですが、実際に1日あたりの労働時間数は先進国の中でもトップクラスで、かつ統計に出ない労働時間も多いと言います。そんな日本の労働事情に大きな改革をもたらすものと期待されるのが「勤務間インターバル制度」です。
大学生の酒井君は、就活サークルを運営しながら働き方改革が今後の就職活動にも大きな影響を及ぼすと考えています。酒井君は経営コンサルタントのK・エーイ氏に、勤務間インターバル制度について尋ねてみることにしました。
終業と始業の間を確保するのが勤務間インターバル制度
―エーイさん、新聞とかニュースで「働き方改革」ってよく耳にしますけど、やっぱり日本人って働き過ぎなんですかね?
うーん、どうなんでしょうね。私から見ると働き過ぎではありますけど、当人たちはあまり気にしてない人が多いんじゃないですか。酒井君はどう思ってます?
―よくわかりませんけど、ちゃんと残業代が出てれば別にいいんじゃないかと。あとは企業と個人の間でうまく調整つくんじゃないですか。
いやいや、酒井君、それは甘い考え方です。残業代を払っても利益が出ると考えれば、企業というのは残業代を支払うものなんです。労働問題が生じているのは、必ずしもサービス残業が常態化しているところだけじゃないんですよ。
―そうなんですか?でも、残業代が出てるなら、もらうものもらって働いているわけですし、「働き過ぎ」は言い過ぎでは?
言い過ぎではないと思いますよ。たとえばEUなら、「24時間につき最低11時間の連続休息時間を与えること」が義務化されているから、日本人ほど働くことがそもそもできないですし。
―「24時間につき最低11時間の連続休息時間を与えること」ってどういうことですか?
つまり、ある日の終業から始業まで、11時間は仕事をさせないことを使用者に義務付けているんです。
―仕事をさせないって義務づける必要があるんですか?雇ってるのに?
はい。たとえば、残業で23時まで働いたのに、翌日は9時始業だと間が10時間しかありません。このくらいならいいですが、シフト勤務なら、早朝勤務のあとに夜勤に入るなど時間が厳しい場合や、通勤時間も入れると休息時間が全然ないという人もいます。しっかり休んでしっかり働いてもらうために、こういう制度があるんですね。
―なるほど。仕事をさせない時間を義務付けることで、労働者が休息できるようにするわけか。そういうことなら納得できます。
その通りです。「働き過ぎ」は労働時間数だけでなく、働き方の問題でもあります。このような終業と始業の間に決まった休息時間を確保する制度を「勤務間インターバル制度」と言うんです。
勤務間インターバル制度のメリットは労働者だけじゃなく企業にもある
―なるほど。確かに労働時間が長いことも問題ではありますけど、あまり休めないまま勤務が続くと辛くなりそうですね。
そうでしょう?特に、しっかり休めないと疲労が蓄積していきますから、心身とも大変になってしまうんですよね。
―やっぱりそうですよね。コンディションが悪いと仕事にも響きますよね。
その通りです。だから、企業が勤務間インターバル制度を使って労働者をしっかりと休ませてあげることは、生産性の維持や向上にも寄与すると考えらえます。特に病院や福祉・介護の仕事だと、ミスが命に係わったり大きな事故になりますから重大な問題と言えます。
―勤務間インターバル制度は個人だけでなく、企業にもいい影響があるんですね。
はい。不要なサービス残業も減らせる可能性がありますしね。
―勤務間インターバル制度は他にもメリットはあるんですか?
はい、勤務間インターバル制度のメリットはまだあります。ある研究によると、仕事に関する拘束時間が長くなった時、人は食事や睡眠は最後まで守るけど、「家族との団らん」、「子供との遊び・会話」、その他趣味などの時間が減っていくんだそうです。
―それは僕も忙しくなるとテレビは見なくなったり、家族との会話も減るので、何となくわかります。でも、これが続くと社会問題とか鬱とか増えそうですね。
そういうことなんです。労働問題でよく出てくるメンタルの問題って、こういうところにも原因の一端があると見られています。そのため、勤務間インターバル制度を導入して休息時間を適切に与えることで、将来的な戦力を失うことを防ぐ効果も期待できるんです。
―勤務間インターバル制度って、労働者がしっかり休めるための制度ってだけじゃなく、企業としても「労働問題の防止」や「労働力の確保」っていうメリットがあるんですね。
そうです。個人だけでなく、企業にも、社会的にも勤務間インターバル制度はメリットがちゃんとあるんです。最近はワークライフバランスを考えることが大事ってよく言いますけど、休息時間があってこそプライベートな生活の時間も豊かになるでしょう?
―確かにそうですね。そもそも時間がないと、遊びも自分磨きも社会参加もできませんね。じゃあ、ワークライフバランスを考えるなら、勤務間インターバル制度がある企業を選ぶと良いのかもしれないですね。
でも勤務間インターバル制度はまだ流行っていない
―ここまでお話を聞いてきて、勤務間インターバル制度って、とても有意義な制度って感じがするんですが、日本では導入されていないんですか?
今、働き方改革の中で議論がされていますね。ただ、義務化はされていなくて、勤務間インターバル制度の現状は導入のための努力をしましょうってところです。
―そうなんですね。勤務間インターバル制度は義務化しちゃったほうがいろんな問題が解決して良さそうな気がするんですけどね。
これがまた、そんな簡単な話じゃないんですよね。結局、勤務間インターバル制度を導入することによって事業活動がうまくできなくなるリスクもあるわけです。
―どういうことですか?
たとえば、翌日の会議の資料を責任者が前日の24時まで頑張って作った結果、会議予定の9時には規則により出社できない、みたいなことが生じるわけです。
―何のために資料作ったかわからないですね。それって。
そうですね、でも、企画系の仕事だと実際に起こりうる問題です。他にも、管理職の立場の人がインターバルのために遅く出社することになると、士気が下がってメンバーの業務が非効率になったり、緊急時に確認ができなくて困るとかね。
―むむむむむむ…。勤務間インターバル制度は思った以上に問題ありそうですね。
また、勤務間インターバル制度は労務管理上も、タイムカードで管理してもサービス残業と同様に、形の上では制度が守られていても実際にはインターバルが全然足りないことも起こり得ます。出退勤にかかる時間を拘束時間に含めるかで制度設計のあり方も変わってくるでしょう。
―なるほど。勤務間インターバル制度は気軽には導入できない気がしてきました。
実際、こういう大変な面が色々見えることもあって、なかなか勤務間インターバル制度が流行らないのが現状ですね。制度の導入支援のための補助金などもあるのですが、二の足を踏んでいる企業も多いようです。
勤務間インターバル制度の導入例
―エーイさんは勤務間インターバル制度は流行ってないと仰いましたが、導入しているところもあるんですか?
はい。日本でも大企業などで労務問題が起こらないように勤務間インターバル制度を導入するところが出てきています。ビール会社などで導入例があるんですよ。
―ビール会社が勤務間インターバル制度?何かイメージが湧かないんですが。
ええとですね。営業部署が中心の話になりますが、営業マンが客先を回る時に、居酒屋などがお客さんだと、午前中とか昼間ってあまり会えないんですね。
―そうですよね。夜に営業してますもんね。
すると、ビール会社では自然と午前中は社内のミーティングや事務仕事などが中心となり、午後や夕方以降に営業活動が行われるようになります。どんなに勤務時間が遅くなっても、午前中も仕事がありますから時間には出社しないといけない。
―うわ~。大変そうですね。
その状況を改善するためにインターバル制度を入れたわけですね。まあ、さすがにEU並の11時間とはいかないようではありますが、好評みたいですよ。
―なるほど。インターバルの時間は会社の実情に合わせて調節しても良いんですね。
そうです。企業によっては努力目標と、義務の二段構えでインターバルを設定しているところもあります。EUでは11時間とは言いますが、日本とEUは社会環境も労働への考え方も全然違います。国内だけで見ても、企業や地方でも状況は違うのが当然ですから、柔軟に考えて個人にも企業にもベストな提案ができるといいですね。
―勤務間インターバル制度を導入した企業では、時間の管理ってどうやってるんですか?
勤務間インターバル制度を導入している企業では、素直にタイムカードで出退勤の時間を管理していたり、事務職やコールセンターなど、出勤してすぐパソコンをつけるような職種では、ある時間になると使っているパソコンから「もう帰る時間ですよ」とポップアップが出て退社を促すようになっていたり、様々な工夫が見られます。
―なるほど。色々な工夫がされているんですね。
勤務間インターバル制度を導入するには、どんな形にせよ、しっかり計画して、また教育や研修を通して必要性や実際の運用を管理する側だけでなく、労働者側にも伝える必要があります。また、ペナルティをしっかり定めることも企業側が本気であることを示す上で大切ですね。
日本が勤務間インターバル制度を導入するならインターバルは13時間程度が適当
―日本の場合、どのくらいが勤務間のインターバルとして適当なんでしょうね?これって仕事を考える上で大事なことのような気がしてきました。
そうですね。労働の分野には新3Kと呼ばれる言葉があって、「きつい、厳しい、帰れない」などと言われたりします。「帰れない」にならないように、仕事を考える上でインターバルはしっかり計算して考えてほしいですね。
―仮に1日に8時間勤務するとして、それで出退勤の時間が1時間と見ると、普通に考えるとインターバルって14時間くらいですかね?
惜しいですね。実際には、8時間働くなら間に45分は休憩を入れないといけない規則があるので、1時間増やして考えて13時間くらいになるでしょう。
―じゃあ、EUの11時間のインターバルって2時間くらいしか残業は許さないってことなんですね。
はい。もう少し交通に時間がかからないかもしれませんが、そういうイメージでしょう。日本の場合、都市部だと片道1時間半とか2時間とかかけて通勤している人もいますし、2時間程度の残業じゃ済まないという方も多いですから、11時間は厳しい所も多いでしょうね。
―過労死ラインって、月に80時間でしたっけ?すると、月に20日働くとすると1日4時間くらい残業することになって…。休息時間のことを考えると、これはすごい不健康ですね。
まあ、現状、珍しくはない残業時間量なんですけどね。この「珍しくはない」状況を変えるためにも勤務間インターバル制度はもっと議論もされて、広まっていってほしいと思います。個人や企業、社会の未来に関わる大きな問題ですからね。
勤務間インターバル制度は今後拡大が見込まれる
―勤務間インターバル制度についてだいぶわかってきましたし、今更ながら日本人が働き過ぎという感覚もしてきました。この制度が広まったらいいですね。
はい、解決するべき問題はありますが、勤務間インターバル制度は拡大が望まれる制度だと思います。政府も、導入企業の割合を2020年までに10%以上とするなど数値目標を作っています。中小企業向けの補助金も、導入のための規則作りやシステム導入、研修費用などに適用できるようになっています。
―すると、今後はどんどん拡大していきそうですね。
そうですね。実際、勤務間インターバル制度は少しずつ増えてきています。しかし、それでもやはり「企業戦士」「滅私奉公」という日本型の労働観が大きく変わらないと、なかなか制度の利用ができないかもしれません。「働き方改革」というのは、制度を変えるだけではダメで、根本的に労働に対する観が変わる必要がありますね。
―確かに、仕事は企業や組織のためにという感覚がどこかあります。今は、より個人のためという意識をもって労働のあり方を考えるべきなんでしょうけど、我が強い人だと思われそうで怖い気がしますね。
そうでしょう。労働者は、そういう考えから脱却したり、周囲をそういう目で見ないようにすることが望まれますし、使用者も個人の生活や健康を大事にすることを考え、給料払ってるんだから組織のために働くのが当然という考えを捨てないといけませんね。
―勤務間インターバル制度の制度以上に、労働への意識の改革が難しいような感じがします。でも、勤務間インターバル制度を考えるだけでも、いろいろと労働への考え方も変わってきたような気もしますし、良い刺激になったと思います。エーイさん、今日はありがとうございました。
就活は、勤務間インターバル制度の導入も企業の評価基準としてみてはいかが
勤務間インターバル制度は、終業から始業までの間の休息時間を定める制度です。労働者の心身を守ることや、生産性の安定、労働問題のリスクの減少などの効果が見込まれます。まだまだ努力段階ですが、政府も導入の後押しを始めているため、今後は少しずつ導入企業が増えていくものと見られています。仕事などを考える際に、休息時間もひとつの評価基準として考えてみてはいかがでしょうか。