BtoEがどんなものかイメージがわかない人は多い
日々増えていく新たなビジネス用語。その中でもビジネスの形を表す言葉も多様化の一途をたどっています。登場して久しい概念である「BtoE」もそのひとつですが、具体的にはどのようなものを指すのかイメージがわかない人が多いと言います。
大学で就活サークルを運営する酒井君は、ビジネス用語について勉強している一人です。言葉はわかっても今ひとつピンとこないBtoEについて、知人の経営コンサルタントであるK・エーイ氏に尋ねてみることにしました。
BtoEは従業員に対するビジネス
―エーイさん、おはようございます!今日もお伺いしたいことがあって来ました!
酒井君、おはようございます。今日は割とのんびりしていますから構いませんよ。
―ありがとうございます。あの、「BtoE」ってあるじゃないですか?今ひとつ良くわからないので教えてほしいのですが。
BtoEですか?あれですよ。「BtoB」や「BtoC」のひとつです。Bは「Business」、つまり「企業」を意味しています。Cは「Consumer」で「消費者」、Eは「Employee」で「従業員」を意味しています。その間で取引(ビジネス)が行われているってことです。
―つまり、「従業員に対するビジネス」ってことなんですよね?それはわかるんです。
では、何が問題なんですか?
―「従業員に対するビジネス」するっていうことがよく理解できないんです。だって、給料払っている相手からお金もらって商品やサービスを提供したらおかしくないですか?
ああ、なるほど。そっちの方向でよくわからなくなっているんですね。はい、きっと酒井君がイメージしているような感じだとおかしいですよ。「BtoE」というのは、基本的にはビジネスの主軸にはならないんですよ。
―え?どういうことですか?
従業員に対するビジネスとは言っても、どちらかというと福利厚生のようなものです。すごく簡単に言ってしまえば、職場に自動販売機があって利益が企業に入る。これがBtoEなんです。自社の社員に対してビジネスを展開し、売上や利益を最大化させるようなものではないんですね。
BtoEが注目され始めてきたのは仕事に対する価値観の変化があるから
―あ、そういうことなんですね。それなら理解できます。
でしょう?BtoBやBtoCなどのビジネスの主軸となる部分と比較されると、どうしても誤解してしまいやすいんですよね。
―見事に誤解していました。それにしても、どうして改めてBtoEなんて言葉が出てきたんでしょうね。自販機くらいなら、ずっと前からやってる会社は多いんじゃないですか?
理由は色々あると思いますが、「仕事に対する価値観の変化」や、「人材確保のための競争の激化」が背景にあるんじゃないかと思いますよ。
―「仕事に対する価値観の変化」ってどういうことですか?僕にはピンと来ないんですけど。
そりゃあ、酒井君は学生ですから、ピンと来たらかえって怖いです。価値観がどう変わったかというのは、言葉にすると難しいのですが、簡単に言うと「より働き甲斐を求めるようになった」と言えるでしょうね。「きつくても給料が良ければ良い」みたいな考えが減ってきて、より「自分らしい働き方」を求める人が増えています。
―それがどうしてBtoEになるんですか?
だから、働き甲斐のある会社だと思ってもらえるように、従業員に対して色々と会社が世話を焼いてあげるんですね。単純に昇給や昇進を与えるのは難しくても、福利厚生を充実させたり、社内で運動会を開いて結束を強めたりしてね。その中で、普段から社員が使っているコストの一部を会社で肩代わりしてあげようという動きになった所で、BtoEという言葉が注目されはじめたんです。
―なるほど。では、「人材確保のための競争の激化」というのは?
こちらはあまり難しくないですね。労働力人口が減ってきていて、優秀な人材を獲得するためには企業にも魅力が求められるようになっています。BtoEは企業の魅力を高めるものとして効果的だと見られているんです。
―ふーん、社会的な環境が変わってきた中で、それなりの市場が見込めるってことでBtoEが注目されてきたって感じですね。どんなものがあるのか、今ひとつピンと来ないんですが、イメージは少し湧きました。
BtoEにはどんなものがある?
じゃあ、少しBtoEの具体的な話をしてみましょうか。
―はい、ぜひお願いします!
たとえば、オフィスにお菓子や飲み物などを棚を作っておいて、欲しいものを自由に取ってもらって、代金を専用の箱に入れるというセルフレジ型のサービスが多くなっています。
―それって、インチキする人いないんですか?
導入を决めた企業は、自社の社員にそういう人がどれくらい出そうかを考えた上で導入を考えているとは思います。それでも減った商品に対して、売上が少ないということはよくあるみたいですけど。その場合は、企業が不足分を補填することになります。
―何だかそれでいいなかなぁって思っちゃいますね。
そりゃあ良くはないですが、よほどひどい場合はサービスの停止をするか、見張りを立てたり監視カメラをつけるなどして常習犯を捕まえるんでしょうね。こういうトラブルはあるみたいですけど、こうしたBtoEのサービスは評判いいんですよ。
―そうなんですか。確かにあれば嬉しいですけど。他にどんなものがありますか?
最近は化粧品販売なども社内で行ってくれるようになりましたね。インターネットなどで発注したら企業に持ってきてくれて、支払いを済ませると。
―つまり訪問販売?
はい、そう考えてもらって結構です。中には時間を定めて、会議室で商品説明や販売をさせている企業もあるみたいです。昔から保険なんかは良く企業に直接訪問していますけど、その延長みたいな感じでしょうね。
―他にもありますか?
直接お金を取らないケースが多いですけど、企業でコーヒーメーカーやティーメーカーのレンタルをして、コーヒー豆代は福利厚生費として処理していることもありますね。
―それは聞いたことがあります。最近のは簡単で美味しいらしいですよね。
そして、最近は食に対する関心や健康意識の高い人が多くなってきたこともあり、オフィスにサラダや一品料理などのおかずを提供するサービスも出てきています。市販や持参のお弁当にプラスワンして栄養バランスを整えるっていうことですね。
―それはちょっとうれしいかもしれません。僕、市販のお弁当だと量が中途半端で。
そうそう。そういったニーズがBtoEの土壌になるわけですね。他にも、文具や生活用品などを企業で大量に集めて購入することで割引できるサービスもあります。昔、うちの奥さんが職場で風邪薬が安く提供されてたからって3箱も買ってきたことがあります。
―へぇ~。いろんなビジネスが職場では行われているんですね。職場でプライベートなモノやサービスを買うって何だかとても意外な感じがしますけど。
昔はそうでしたが、今は考え方が少しずつ変わってきているんでしょうね。出張のヘアカットやマッサージなんかも、職場の中で堂々と行われるような企業も出てきています。通勤用の自転車を格安貸与なんて会社もあるんですよ。
BtoEのビジネスとしてのメリットはどこにある?
―でも、ちょっと疑問に思ったんですが、BtoEで商品やサービスを提供する側のメリットってどこにあるんでしょうね?つまり、大抵は市販の価格並かもしくはそれ以下ってことですよね?普通に商売していた方がいいんじゃないですか?
そう思うかもしれませんね。でも、そうとは限らないんです。
―どうしてですか?
それは、職場というのは必ず一定数の客が見込めるからです。そこに適切なサイズの店舗を置くことができるなら、企業にとってもメリットは大きいんですね。また、その中には普段は絶対に利用しないような層もいて、自然に労力をかけずに新規開拓ができる可能性があるんです。
―新規開拓にもなるんですね。でも、客数とは言ってもすごい数にはならないでしょう?
そこがビジネスのキモだと思うのですが、BtoEのサービスの多くは、店舗や棚の設置に対しては賃料が発生しないんです。多くのケースでは人件費もほとんどかかりません。そのため、価格を安くすることで売上は減っても、実は利幅は大きいことが多いんですね。
―そうなんですね!すごいビジネスじゃないですか!
しかも、職場にあるため、利用者は買い物やサービスを受けるために外出する必要が無くなるんです。だから常に一定のニーズがある。駅や病院内の売店みたいな感じですね。
―なるほどなるほど。言い方は悪いですが、「楽して儲けられる」仕組みが作りやすいんですね。それなら企業があえて低価格でもやってみようとするのがわかります。
その通りです。インターネットや宅配のアウトソーシングなどを上手く組合わせて、できるだけ効率的に販売拠点を作り、実際の売上を細かく積み上げていく形ができてきているんですね。企業にとっても、また利用者にとってもwin-winの関係を作りやすいビジネスモデルなんです。
BtoEってデメリットは無いの?
―エーイさん、BtoEがすごいことはわかったんですが、デメリットはないんですか?
やっぱりありますよ。さっき話したような、フリーライダー(タダ乗り)の問題もありますし、またサービスの提供元からすると、一つの拠点からの売上はそう多くは見込めないんです。でも、商品の管理はしっかり行わないといけないため、拠点がある程度近くに多くまとまっていないと非効率なビジネスになってしまいやすいんです。
―言われてみるとそうですね。商品の出し入れだけでも時間もかかりますし、そのための人員はゼロにはできませんものね。
そうなんです。加えて、最近はビルや企業のセキュリティが厳しくなっているため、あまり多くの業者が出入りするのを嫌う環境も少なくないんです。そのためにBtoEを行いたくても行えない企業もまだまだ多いという問題があります。
―なるほど。それは考えていませんでした。
また、BtoEのサービスは職場に活気をもたらすとも言われていますが、一方で集中力を落としてしまったり、ゴミが増えたりする原因にもなりかねず、適切な利用が求められますね。
―便利ってだけじゃないことがわかりました。でも、デメリットの多くは工夫すれば何とかなりそうな気がします。
そうですね。だから、増えるところではどんどん増えていて、手付かずの所はまだ手付かずって感じの現状です。でも、導入例が積み上がっていることや、サービスが多様化してきていますので、BtoEは多くの企業が利用するようになるんじゃないでしょうか。
BtoEへの反応と今後
―BtoEって面白いですね。個人的には就活の企業選びの時に参考にしたくなりました。
そういう観点で企業を見るのも面白いかもしれませんね。こうしたサービスを活用していると、企業の中で会話のネタにもなるそうです。話題作りのために、季節ごとに限定商品を投入しているBtoEサービスもあるみたいです。
―社内で「きのこたけのこ戦争」みたいなことが起こるんですね。ちょっと楽しいかも。
それに、「リラックスしたコミュニケーションが取れる」「厳格な顔した上司がプリンを食べていたりして和んだ」という話もあります。同僚の普段と違った側面を見られて面白いと感じたり、企業に愛着が出たりすることもあるみたいですね。
―そういう良い雰囲気の中なら、良い仕事もできるようになるんじゃないですか?大人ですから、そこまで仕事を横に置いてということも無いでしょうし。
そうだと良いですね。まあ、BtoEへの反応は基本的に上々ですし、オフィス内で提供できる場所があったり、また従業員のニーズがハッキリしている場合などは積極的に導入を考えてもいいのではと思います。今後はそうしたサービスは種類も増えて、企業の規模を問わずどんどん広まっていくでしょうね。
―BtoEって全然イメージが湧きませんでしたが、聞いてみると面白いなぁと思いました。従業員向けにビジネスをするアイデアは、色々考えたらもっとありそうですし、就職先として考えても楽しそうに思います。エーイさん、ご指導ありがとうございました。
従業員に対するビジネス「BtoE」は今後も注目したい
BtoEはビジネスの形として目立つものではありませんが、着々と広がっているビジネスです。企業が従業員に対して働き甲斐のある職場作りや、コミュニケーションの向上、生活の質の向上などの目的を持って導入するもので、様々なサービスが提供されています。今後も市場規模は拡大する可能性は高く注目されていますので、ビジネス用語としても是非覚えておきましょう。