インフルエンサー採用は新たな就職の形になるか?
SNSを多くの人が利用する社会になってきましたが、SNSの情報の拡散力に注目している企業も多くなってきました。企業がブランディングや正しい情報発信をすることを目的にSNSを利用することがありますが、その際に強い影響力を発揮できるインフルエンサーを募集する「インフルエンサー採用」を始める企業が出始め、話題になっています。
大学生の酒井君は、インフルエンサー採用に注目している一人。酒井君は、インフルエンサー採用の攻略法を求めて経営コンサルタントのK・エーイ氏の下を訪ねました。
インフルエンサー採用は時代のニーズから生まれた
―エーイさん、おはようございます!
はい、酒井君、おはようございます。今日は一段と元気ですね。
―はい!今日は特にやる気出して来ましたから!それで、「インフルエンサー採用」に備えてできる準備をしておこうと思いまして、エーイさんに戦略を考えてもらおうかと。
おっ、話題のインフルエンサー採用ですね。酒井君、やる気なんですか?
―ひとつの選択肢として、選べるくらいにはできたらいいなと思ってます。
ちなみに、酒井君のSNSのフォロワー数ってどのくらいですか?
―Twitterで280くらいです。InstagramとFacebookもやっていますが、同じくらいですね。
うーん、残念ながらそのくらいだと話にならないですね。インフルエンサー採用を企業がするのは、その分野に関しては即戦力を見込んでいると思います。これは企業内で育てようと思ってもなかなか育てるのが難しい特殊な人材で、だから即戦力になれる人材を求めているんだと思います。
―そうなんですか?仲間うちではまあまあ多い方なんですけど。最高で3000件くらい「いいね」がついたこともあるんですよ。
そうかもしれませんけど、インフルエンサー採用で企業が募集している場合、SNSのフォロワー数が最低でも1000はないとダメでしょうね。企業によっては2000とか10000とか求められる場合もあります。「いいね」の数は平均して多いならいいですが、一発屋だとダメですね。
―そんなにハードルが高いんですか?
そりゃ、日本の人口なんて1億3000万人くらいいるわけですから、200や300じゃほとんど影響ないじゃないですか。インフルエンサー採用は情報発信力の高い人材を求めるという時代のニーズです。しかし、そのニーズを満たせる人というのはかなり少ないですし、だからこそ採用しがいのあるハイレベルな人材だと言えるでしょうね。
インフルエンサーとはどういう人?
―インフルエンサー採用って、相当なレベルの人じゃないと難しいってことなんですね。でも、まだ就活まで時間はありますし、何とかならないかなぁ。
あの、酒井君はインフルエンサーってどういう人だと思っています?
―え?SNSのフォロワーが多い人じゃないんですか?
うーん、50点くらいかな。インフルエンサーっていうのは、そもそもは「影響力のある人」っていう意味から始まってるんですよ。「その人の発言は注目されていて、多くの人に影響を与える」っていう意味あいなんですよね。だから、フォロワーも自然に多くなるんです。
―ということは、インフルエンサーの基準はフォロワーの数じゃないと。
はい。ズバリ言えば「発信している情報の中身」です。たとえばTwitterなら大喜利みたいなもので盛り上がってたくさん「いいね」やリツイートがついたりします。Facebookなら同窓会とかパーティーとかの情報をアップすると一緒に参加した人がシェアしたり「いいね」をつけてくれます。Instagramならインスタ映えする写真なら「いいね」も多くつき、共有も多くされます。でも、そこに情報としての価値がなければ、インフルエンサーにはなれないんです。
―そうなんですか?インフルエンサーと言われているような人でも、けっこういい加減なツイートしてるなとよく思うんですけど。
まあ、それはそれです。でも、その個人の専門分野における独自の視点や、他の人が知らないような情報の発掘、センスのある写真や提案など、その人ならではのコンテンツがたくさんあると思いますよ。
―そうか、僕のSNSにはそれが足りないのか。役立ちそうなニュースをシェアしてるだけだもんなぁ。
役立ちそうなニュースをシェアしているだけがインフルエンサーになれる要素かはわからないですけどね。ただ、本当の意味でのインフルエンサーとはそういうものですし、企業も当然、ただフォロワー数だけを見ているのではなく、そういう中身の部分をかなり気にして選考していると思いますよ。
インフルエンサー採用のメリットは多い
―インフルエンサー採用って、調べてみたらすごいんですよ。採用ステップは短くなるし、最初から給料にプラス査定がつく会社もあるんです。また、ほぼ間違いなく得意なSNSなどを扱う部署に行けるわけですから、いいことづくめですよ。年齢や学歴不問というところもあるんですって。
なるほど。さすがにハードルが高いだけあって、インフルエンサーはいい待遇ですね。それだけの価値が企業にもあるってことなんでしょうね。
―企業にとっての価値となると、やはり企業の宣伝がしやすいということでしょうか?
やっぱり一番はそこでしょうね。情報発信力のある個人がいることによって、企業そのものや、扱っている商品・サービスが外部に広く知られるようになります。また、そういう個人が一人いることによって、多くの社員がセルフブランディングについて考えられるようになるという波及効果もありますね。
―なるほど。ただその人の情報発信の能力だけでなく、影響力まで見越しているんですね。
そうですね。個人のブランディングって、まだまだ日本ではそこまで重視されていないですよね。しかし、インフルエンサーというのは自分をSNSという限られた舞台でどのようにブランディングしていくかを考えてきた人たちだとも言えるわけです。特に知識見識で社会人に劣る学生なら、発想とブランディングに関するこだわりがほぼ勝負になりますよね。
―そうですね。学生は持っている知識や経験が特別なものでないとしても、うまく情報を発信したり、自分のことをうまく見せたりすることでブランディングできますね。意外と社会人でもそういう風にできている人は少ないと言いますし、ブランディングだけなら即戦力っていうのは確かにそうなのかもしれません。
まあ、他にもインフルエンサー採用をするということ自体が企業にとっての話題づくりになったり、従業員や顧客にSNSへの意識を高めさせるキッカケになります。社内のマンネリ化を減らすという点でも意味があるんでしょうね。
インフルエンサー採用に対する世間の反応はまだまだといったところ
―インフルエンサー採用を行うということについて、世間の反応ってどんな感じなんでしょう?
そうですね。聞きかじったところによれば、やっぱり賛否は分かれていますね。反対意見の方が今は強いのかなと思いますけど。SNSの良くない面を強調する人は比較的多いですからね。
―インフルエンサー採用の賛成意見としては?
賛成の人は「応援してます」とか「SNSでフォロワーを増やせるような人が優秀なのは当然」などの意見を持っているようですね。
―じゃあ、反対意見としては?
反対意見としては、「SNSのフォロワー数で人の価値を決めるのはおかしい」「サクラを増やした人が勝ちになってしまう」とかそういうものが多いみたいです。
―反対意見はもっともな感じもしますが、これってどうなんでしょうか?
うーん、私としてはですね、よくわかっていない人が反対しているのかなと。インフルエンサー採用の上っ面だけを見て批判しているんじゃないでしょうか。だって、実際にフォロワーを増やそうと思ったらけっこう大変なんですよ。100や200はできても、1000や2000は全然レベルが違います。また、先ほど言ったように絶対に中身を見られていますから、自分からの情報発信がほとんどなく、ツールなどで自動的にフォロワーを集めたりしているようならまず採用されません。
―じゃあ、批判の多くは当たらないということになるんですね。
はい、そうだと思います。インフルエンサー採用は、個人的にはデザイナーなどが作品を見せる「ポートフォリオ採用」などの方式とそれほど変わらないと思います。昔から就活では「自分でwebサイトを作って年間10万PVを達成しました」みたいな人はいたと思いますから、その進化版だと思えばいいと思います。
学生がインフルエンサー採用で注意するべきこと
―僕のような学生がインフルエンサー採用を受けようと思った場合に、注意するべきことや用意するべきことには何がありますか?
うーん、そうですね。結構専門的な内容になるのかもしれませんが、今まで適当にSNSを使っていたのなら、いっそそれは完全にプライベート用にして、「新たに就活用もしくは外向け用の別アカウントを作って、計画的にSNSをブランディングしていった方が良い」でしょうね。
―え~、せっかく頑張ってきたのに、時間かかりそうで何か嫌な感じがするんですけど。
でも、過去の投稿の中には不適切なものだったり、見ている人が不快に感じるようなものが入っている可能性もありますよね。
―そういえば、昔飲み会で潰れる直前の半裸写真をアップした気が。あれは見られたくない…。
ははは。若さゆえの過ちですね。あと、「フォロワーの質も注意」しないといけないですね。
―「フォロワーの質」ってどういうことですか?数じゃなくて?
はい。たとえば、botとか、ほとんど投稿もなくフォローもフォロワーもいない作っただけのアカウントとか、自分の投稿内容とまったく関係のない趣味や傾向のアカウントとかは、質が低いフォロワーと言うことができます。フォロワーの質が低いと、フォロワーが多くても、情報発信をしたときに、何も返ってこなかったりするんです。やはり、本物のインフルエンサーには情報を拡散したり、議論して深めてくれる良いフォロワーがついています。
―うーん、自分のフォロワーって改めてチェックしたことないなぁ。どんな人がついているんだろう?
まあ、酒井君みたいに300近いフォロワーがいれば、棚卸しをするのもそれなりに面倒ですし、自分がブランディングしたい方向性でそこに関心のあるフォロワーが集まるのがベストですから、そのためにもSNSをゼロから始めてみたらどうかということですね。
―なるほど、おっしゃっていることがわかった気がします。
もうちょっと言えば、「企業側が関心を示すしかないような何か」を考えてブランディングしていくことが大切ですね。今なら著名人やインフルエンサーのサロンに入って学んでいることや、アパレル企業ならその企業のブランドをうまく着こなしている写真などは、良いアピールになると思います。
インフルエンサー採用はこれからも続くのか
―インフルエンサー採用って、今は注目もされていますし、厚待遇も約束されていますけど、これって今後も続くんでしょうかね?
そうですね、これはちょっと判断つかないですね。今はまだアパレルなどの販売系の職種やクリエイティブ職に関して行われているだけだと思うのですが、インフルエンサー採用が他の業界に対しても波及するかということがひとつの問題ですね。また、このインフルエンサー採用で採用された人材が、企業に入社した後にどのくらいのパフォーマンスを見せるかがひとつの指標になると思います。
―じゃあ、今の時にインフルエンサー採用で入社する人ってすごい影響があるんですね。
はい、まさにインフルエンサーですね。
―僕としてはこういうジャンルって面白いなと感じるので続いてほしいですけど、やっぱりいろんな条件で継続したりしなかったりするんでしょうね。
そうでしょうね。「逆求人」などもそうですが、個人の情報発信力が求められている時代だからこその採用形態だなと感じます。でも、この傾向はしばらくは拡大するのではないでしょうか。
―なるほど、安心しました。インフルエンサー採用に関して、話を聞く前よりずっと理解が進んだように思います。ありがとうございました!では、インフルエンサー採用に向けて、早速アカウントを作り直してきますので、フォローと拡散をお願いします!
インフルエンサー採用は情報発信力を問う現代ならではの採用スタイル
インフルエンサー採用は、企業側が個人の情報発信力に注目して応募者を選考する採用スタイルです。企業によって募集要項は様々ですが、どれもSNSなどのフォロワー数や内容などで、明確な実績を持っていることが条件になります。一朝一夕で採用されるレベルまでSNSを充実させることは難しいですが、今までの実績がある人はブランディングを見直しつつ、チャレンジしてみると良いでしょう。