民泊のあり方について、あなたはどう思いますか
東京オリンピックを前に、外国人によるインバウンド(国内への流入)は日増しに増える一方で、その宿泊の受け皿として民泊は注目されています。民泊と言えば、民泊新法が賛否両論を巻き起こしていますが、民泊についてどう考えるかは旅行業を中心に就活でも問われる可能性があります。
大学生の酒井君は、経営コンサルタントのK・エーイ氏に民泊の問題やこれからについて話を聞いてみることにしました。
そもそも民泊ってどういうものを言うの?
―エーイさん、今日は民泊について教えてください。
はい、いいですよ。民泊の問題は社会的にもとても大事な問題ですから、就活でもネタとして出る可能性は高そうですしね。
―はい。というわけで、学生にはない社会人らしいやつをお願いします。
民泊でも何でも学生にはなくて社会人にはあるような意見はないと思いますよ。まあいいでしょう。酒井君は、民泊ってどういうものだと思っていますか?
―えーと、「自分の家の空き部屋に宿泊料をもらって他人を泊めるもの」でしょうか。
まあ、イメージとしては合っていますね。民泊と考えられるのは、こうした自宅などの一室を宿泊料をもらって外部の宿泊者に貸し出す行為です。
―では、地方の友達が就活でウチに泊まりたいって言った時、宿泊料をもらったら民泊になるってことですか?
いえ、その場合は民泊とは言わないですね。基本的に民泊などの宿泊業と言われるようなケースは、反復的にそういったことが起こり得ると見られる、あるいは反復的に宿泊が行われている事実があるケースです。こういう形を「営業」と呼び、その営業が行われていることが前提になります。
―反復的にっていうのがちょっと引っ掛かりますね。イメージしにくいというか。
まあ、少なくとも知り合いがある程度の期間泊まりに来るとかそういうレベルで引っ掛かることはまずないです。引っ掛かるのは、民泊情報サイトなどに物件情報を掲載するなど、集客活動を絶えず行っているような場合ですね。
日本の民泊に大きな衝撃を与えた民泊新法は悪法なのか
―民泊と言えば、民泊新法という法律ができたと聞きましたが、これが良くないという話もたくさん耳にします。何が問題だったんでしょう?
民泊新法は、表向きは民泊業者が民泊を始めやすいように制度を整えたということになっているんですが、実際のところは法制化することによって民泊業のうまみを消し、ヤミ業者を追い出したり摘発するための法律になってしまっているという所でしょうか。
―え?そういうことだったんですか。そうだとしたらひどいですね。
はい。確かに、日本では急速に民泊が増えていて、全国には6万件以上の民泊があると言われていたのですが、この法律ができてきちんと民泊として申請してきたのは3000程度にしかならないそうです。相当数、民泊ではなく旅館・ホテルとして申請することになったと言いますから、今まで民泊としてリーズナブルにサービスをしていた所も減ってしまいました。
―これで得する人っているんですかね?
いるとしたら、既存のホテルや旅館などの宿泊業者くらいでしょうね。海外では、民泊というのはホテルなどのような規則が緩いことを利用して、様々なコンセプトでホテルなどにはできないサービスを提供するという、補完関係があるのですが、どうも日本においては敵視されている印象です。
―その敵視に法律が一枚噛んじゃった感じになってるんですね。
まさにそうです。それゆえ、日本における民泊の可能性は大きく潰されたと評する人もいます。今後も正式に許可を得てまで民泊をしたいと考える人が少なくなるでしょう。何せ、年間180日までしか営業できない上、法を破った場合には100万円以下の罰金もしくは6か月以下の懲役です。ホテルで利用率50%ならまず潰れますから、資産活用としての民泊はかなり難しくなりましたね。
民泊の議論の中心はシェアリングエコノミーとダイバーシティ
―この民泊についての問題は、どこにその議論の中心があるんでしょう?
そうですね、先の民泊新法の内容が適当かということを除くなら、大きくは「シェアリングエコノミー」や「ダイバーシティとセキュリティ」というところじゃないでしょうか。
―では、シェアリングエコノミーについてまずお願いします。
今は様々なところでシェアリングの考え方が広まりつつありますが、空いた物件や部屋をシェアできる状態にするというのが民泊の考え方です。
―ふむふむ。なるほど。理解できますね。
日本は今後、人口の減少などもあって空き家が増えると言われています。住む人が少ない空き家や部屋をうまく使ってもらえるなら、それは社会的にもとても有意義なはずなんです。
―そうですよね。それなのに何では反対されてしまったんでしょう?
一番の理由は、まだまだ日本にこの「シェアリング」という発想が根付いていないことにあるのでしょうね。相乗りや相席を極端に嫌う性質が日本人にはあります。お酒を飲む場で、個室があるっているのは海外ではあまりないですよ。
―ふーん、そういうものなんですね。
また、日本人って風呂は誰とでも一緒に入るのに、変なところで他の人と共有は嫌だと言うんです。潔癖すぎるというか、他の人に対して信頼するのが苦手なんでしょうね。身内ならまだしも、他人や、とりわけ外国人には厳しい態度を取ることも多いですね。
―そうか、それでシェアリングがうまくいかないというか、アレルギ―的にやめさせる方向に向いてしまうんですね。
そういうことですね。政府は様々な社会問題の解決にシェアリングエコノミーを活用したいとは言っていますが、民の意識はそこまで追い付いていないのが現状です。
―では、次に「ダイバーシティとセキュリティ」についてお願いします。
はい。ダイバーシティというのは様々な背景の人を互いに受け入れる社会のことを言いますが、外国人や障害者、高齢者、LGBTなど、いろんな人がやはり差別的な扱いを受けることが日本では多々見られます。
―よくこうした内容がニュースなどで話題に上がりますね。政治家や立場のある人の発言から差別的な態度が見えると、一気に炎上している気がします。
自分たちにとって異質なものを受け入れるというのは、人間は本能的に抵抗するようになっています。これは自分たちの安全を守るためです。しかし、日本人は島国根性というか、この性質が特に強いために、不特定多数の人が周囲にいる状況を嫌うんですね。
―それで、民泊のような事業に対しては反対運動が起こったりするんですね。
そういうことですね。その他にも、ビルやマンションでも、不特定多数の人が出入りするような事業は禁止するところがありますし、宗教団体などは日本人の多くには異質も異質ですからそれだけで賃貸すらできないこともあるそうです。
―でも、確かによくわからない人たちが身近にいると思うと怖いですね。
この怖いと考えるのは、どういうイメージを抱いているかに左右されがちです。マスコミで悪い方に報道されているものは怖いと感じますし、良い方に報道されているものはそう感じないんです。外国人でも日本人でも、セキュリティ上の問題は同程度にあるはずなのに、なぜかそう思えないんですね。
―確かに、何となく外国人の方が危ないんじゃないかって考えてしまっている気がします。日本人のこういった国民性が、民泊なども必要以上に怖いものにしてしまっているんでしょうね。
新法前の民泊は様々な問題をもたらしている
―しかし、セキュリティってことで言えば、民泊ってやっぱり問題も多いんじゃないですか?
はい。確かに問題はまっとうな旅館業に比べたら多いのは間違いないですね。ひどいところだと、泊まろうと思って行ってみたらカーテンすらない丸見えの部屋だったという話もありますし、ホストに利用者が襲われたという話もあります。
―ヤミ民泊も多いと言いますが、違法民泊をしていてもバレないものなんでしょうか。
基本的に民泊なのか、それとも普通の宿泊なのかって外からは判別するのが難しいんですよね。特に外国人に対しては日本人はよくわかりませんから、判断する方法に乏しいのが実情です。あまりにも頻繁に多種多様な人が出入りしているようなら、近所から情報が入って、確認が行われるというくらいではないでしょうか。
―ホテルや旅館みたいに看板が出ているわけじゃないですもんね。
だから、判断基準としては民泊サイトに掲載されているかといったものになるのですが、それでもあの手この手で規制を潜り抜けて違法で活動している業者もまだまだあります。
―困ったものなんですね。普通にちゃんと民泊営業をしていれば、問題はないんですか?
いえ、営業側に問題が無いとしても、宿泊者による問題もあります。夜中遅くに住宅街で大騒ぎされたり、ゴミが分別なく捨てられていたり、備品が盗難されたりなど、様々な迷惑行為が行われることもあります。
―そういうことされたら、やっぱり嫌ですね。
嫌でしょうね。特に、ホテルなどは基本的に商業地域にありますが、民泊って住宅地域にできやすいですから。トラブルによって生じる迷惑加減もちょっと違ってきますよね。
―他にも問題が何かありますか?
そうですね。民泊目的に分譲マンションや一軒家の買い占めが行われるっていう問題がありますね。本来は地域の開発だったり、ファミリーなどの住居として考えていたのに、違った用途で使われることによって町の発展や雰囲気を壊す可能性もあります。
これから日本の民泊はどうなっていく?
―エーイさんは、これから日本の民泊はどうなっていくと思いますか?
日本の民泊って、昔は農業体験や漁業体験のついでに行われていたんですね。そういった体験型宿泊のサービスのひとつに戻っていく可能性がひとつですね。
―安くいろんな人に使ってもらえる民泊は無くなっていく?
とりあえず、現行の新民泊法のもとでは、その可能性が高いなあと感じています。とりあえずは、東京オリンピック前後がひとつのピークになって、その後は訪日客が減っていくにつれて民泊は減っていくんじゃないかと思います。
―何だか寂しい見通しですね。
はい。世界的には、民泊は今非常に勢いがあります。Airbnbのようなサービスがあることで、世界中で使いやすくなり、また多くの人が民泊の魅力に気づくようになりました。ただリーズナブルなだけでなく、ホームステイのように様々な国のホストと交流ができることなどが魅力でもあります。でも日本だと、その魅力を伝えていくのは難しいのかもしれません。
―どうしてそう思うんですか?
日本は外国と比べて、ホームステイなどの受け入れも少ないですし、外国語にもコンプレックスのある人が多いからゲストと積極的にコミュニケーションを取ろうとしない。手離れの良いビジネスくらいに民泊を考えている人の方が多いんじゃないでしょうか。それだと安いくらいしか魅力はないですね。
―なるほど、言われてみるとそうですね。日本は海外から見ると魅力的な国で、その代わりに宿泊料が高くついちゃうから、民泊ってとても良いアイデアだと思うんですけど、コミュニケーションがしにくい所に外国で宿泊したいとは思わないなぁ。
それに、ボランティアレベルでは良いとしても、やはり今の日本だとビジネスで採算が合わないと爆発的には増えないですよね。実際、法律が厳しいため、採算が合わないからと多くの人が投げてしまっています。民泊については、日本は利用することがほとんどないという国になる可能性が高いと見ています。
民泊が難しい日本はグローバル社会にどんどん遅れていく
この民泊の件だけでなく、世界的なグローバル社会化に日本は完全に遅れていると言っていいでしょうね。いまだに活躍した日本国籍のスポーツ選手に対して「日本人に見えない」みたいな声が多く聞かれるような国ですから。
―あ、この前僕もSNSでそういうこと書いてしまった気がします…。国際結婚や混血、移民、帰化など様々な形で外国から人が入ってきていますが、頭ではわかっていても、感情的なところとか、まだまだ受け入れられていないんでしょうね。
そうですね。世界的にはいろんな国のいろんな人種のいろんな文化的背景を持つ人が周囲にいて当たり前になりつつありますが、日本はまだまだなんでしょうね。民泊の件は、それを示すほんのひとつの材料に過ぎません。
―これはどこに問題があるんでしょうか?政府?教育?
誰が悪いというのはありませんよ。ただ、年月が必要だというだけです。ただ、今の状態がまずい状態だとは思っておかないと、国粋主義になってしまう可能性がありますから、どんどん様々な国や文化を持つ人と交流していくようにしたいものですね。
―もうそろそろ外国人アレルギーを日本人は直していかないといけませんね。民泊はその良い機会だと思えるだけに、頑張ってほしいなあと思います。エーイさん、今日はありがとうございました。
民泊がきっかけで日本人の国際化度合いが露呈した
民泊の問題は法律の問題や、民泊という業態の運営上の問題など様々な面で語ることができますが、その背後にはより大きな問題として日本人の国際化が進んでいないという問題を見ることができます。外国人に対して抵抗が強いと自分で感じるなら、早めにその抵抗を抜けられるよう努力しましょう。日本がガラパゴス化しないためにも、世界の潮流に合わせて自分を作ることが大切です。