新しい方式の「ブラインド採用」について教えて!
就職活動においては、常に「学歴バイアス」や「顔採用」、「男女差」など、就職活動におけるパフォーマンスとは関係のない部分での評価が疑われています。実際、大企業には高学歴者が多かったり、企業によっては男性ばかり、女性ばかりが採用されるケースもあります。
大学生の酒井君は、そういった採用について不満や不信を感じています。そんな中、メンターとなっている経営コンサルタントのK・エーイ氏は、海外で行われている「ブラインド採用」を紹介するのでした。二人のやり取りを聞いてみましょう。
「ブラインド採用」の波がついに日本にもやってきた
―エーイさん、先日ちょっととある企業の新卒採用のページを見ていたんですけど、先輩社員の出身企業が軒並み国公立や有名私大だったんですよ。やっぱり就活って、学歴による偏りがあるんですかね?
うーん、無いとは言い切れませんが、それが全てでもありませんよ。
―やっぱり、煮え切らない回答ですね。こういう大人たちの態度が僕たち学生たちに不信感を与えるんだー!
どうしたんですか?もしかして、酔っているんですか?
―いいえ、お酒は飲んでないですよ。ただ、ちょっと色々就活の勉強をしていると思うところがありまして。それで怒りを表してみたいと思っただけです。すみません。
もう、こっちはいい迷惑ですよ。まったく。そういえば酒井君、最近は面白い採用方法があるのを知っていますか?「ブラインド採用」って言われているものなんですけど。
―何ですかそれ?目隠しでもするんですか?
まあ、そんな感じです。「ブラインド採用」というのは、「応募者の学歴や名前、性別、年齢などいろんな情報を隠した状態で行う採用活動」のことです。
―ええっ、そんなのアリなんですか?
だって、それなら平等じゃないですか。それに、ブラインド採用がもたらすメリットが今は注目されているんですよ。きっと、不透明な採用に対して怒っている酒井君にも納得してもらえるんじゃないかと。
―でも、そんな採用方法聞いたことないですよ!
海外では行われている例も結構あるんですけど、日本では今、少しずつ導入企業が増えてきているところです。そのメリットや今の社会情勢を考えると今後もっと増えると思っています。そんな「ブラインド採用」について今日はお話することにしましょう。
ブラインド採用を取り入れるメリットや効果はあるの?
ブラインド採用が実験的に試みられたのは1970年代のアメリカで、スタンフォード大学のクレイマン・ジェンダー研究所が行ったものに遡ると言います。
―だいぶ前の話なんですね。
はい。当時の大学のオーケストラでは、女性の団員が非常に少なく、割合で言えば全体の5%程度に過ぎなかったそうです。当時は入団者をオーディションで審査して選んでいたそうですが、この審査を演奏者が見えないようにして行ったところ、一次審査の合格者率が50%を超えたそうです。
―すごい違いですね!今の時代なら男女差別だって騒がれちゃいますよ。
そうなんです。この例に限らず、私達の中にはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)と呼ばれるものがあって、先入観によって何かを决めていることが多いと考えられるんです。それを取り除くために、バイアスをかける可能性のある情報を排除して行うのがブラインド採用なんですね。
―なるほど。単純な目隠しではなくて、情報に対してのブラインドなんですね。
そうです。今後は様々な人が共に働くダイバーシティ化が進んでいきますが、その中で偏見や先入観というのは多様性を失わせる原因になると見られています。ブラインド採用が今後増えると私が思っているのは、本当にダイバーシティを進めるつもりなら行わざるを得ないと思うからです。
―それなら納得できます。でも、ブラインド採用ってことは完全に実力勝負ってことですよね?優秀な人しか採用されないんじゃないですか?
うーん、そうかもしれませんね。でも、企業が欲しい人材の優秀さって、必ずしも同じではないですから、それはそれで良いのではないかと思います。
―僕はそこまで自分の優秀さに自信ないです。
あれ?さっきまでの怒りはどうしたんですか。結局、実力以外で評価されるのも嫌で、実力でも勝負したくないなら手段が無いですよ。
―それを言われると辛いです。
まあ、だとしても実力勝負なら実力勝負で対策のしようがありますから、就活をしっかり行えば絶対無理ということは無いかもしれませんよ。
―なるほど。ちょっと希望が出てきました。
それに、ダイバーシティ化は単純に労働力を補うだけでなく、従業員に多様性をもたせることによって、新しい刺激やイノベーションを求めるという目的もあります。ですから、あまり心配しなくとも偏った採用にはならないと思いますよ。
ブラインド採用は海外ではすでに始まっている
―エーイさんは海外でブラインド採用が行われた例があると仰っていましたが、やっぱりそういうダイバーシティが必要だからですか?
欧米ではそういう色が強いですね。いろんな民族の人が常に出入りしている他民族国家ですから、人種や宗教、年齢や性別など様々な要素が違っていますから、それだけ偏りも出やすいんです。
―日本のような単一民族の国家だと外国人に違和感がある人もまだ多いと思うんですが、そういう他民族国家だとむしろ差別とか無さそうに思っちゃうんですが。
そんなことはないですよ。むしろ民族意識が刺激されたり、目の前に違う民族の人がいて理解できない行動をしていると色々思うところがあるようです。ダイバーシティは今、全世界にとっての課題です。
―なるほど。ブラインド採用が注目されるわけですね。
はい。でも、面白いところではお隣の韓国でも公共機関でブラインド採用が始まりました。
―あれ?韓国も単一民族の国ですから、あまり必要なさそうなのに。
韓国の場合はちょっと事情が違っていて、超学歴社会であり、大企業への就職は一流大学を出ていないとほぼ無理で、履歴書の顔写真の良し悪しも結果を大きく左右すると言われていたんです。一流大学に行かせるために低年齢からの英才教育や留学経験、また整形などあの手この手が行われていたんです。
―それって、能力だけでなく、すごいお金もかかることですから、公平じゃないですね。
そうです。だから、若者に平等な就職機会を与えるということでブラインド採用が実施されるようになったという経緯があります。
―韓国ほど極端じゃなくとも、日本でも平等な採用が期待されていると思えば、ブラインド採用は確かにアリですね。
はい。ちなみに、多様性のある企業の方が実績が上がるということが世界中の様々なレポートによって確認されています。パフォーマンスの良い企業は人種や性別における多様性がある企業が多いそうですよ。日本も今後はそういう組織の形を目指すことになりそうです。
ブラインド採用の進め方は?
―ブラインド採用って、実際に行われる時はどうやって行われるんですか?
どこまで徹底するかにもよりますが、基本的には評価をする人と事務処理をする人は分ける必要がありますね。エントリーシートや履歴書などは、評価をする人には評価に関わる情報以外は削除した形で手渡します。
―本当に何もわからないんですね。面接の場合は?
面接の場合は、まずは外見が見えないように目隠しを立てるか、面接官が別室にいる状態で面接をする必要があります。また、声からも性別などが伝わりますから、ボイスチェンジャーを使ったり、音声認識ソフトなどで文字化してチャットのような形でやり取りをする必要があります。
―何だか面倒ですね。
はい、その面倒なことがブラインド採用を導入するにあたっての一つの課題だと言われています。ブラインド採用という言葉で応募者が減ってくれれば良いのかもしれませんが、人数が多くなるとそれだけ大変なことになるでしょうね
ブラインド採用が持っている問題点
―ブラインド採用って、採用側が面倒に感じるというのはわかるのですが、他には問題は無いんですか?
もちろんあります。ブラインド採用はダイバーシティ化を進めると言いましたが、実はそれ、半分本当で半分は嘘なんです。
―どういうことですか?
正確に言うと、ブラインド採用は「偏見が反映されない」だけであって、「結果を多様性のある形にコントロールできるわけではない」んです。
―ちょっと難しいです。例をください。
簡単に言えば、ある企業でブラインド採用を実施したら、今年度の内定者は全員女性だったというようなこともあり得るということです。
―なるほど。確かに男性を選べるわけではないですからね。でも、それってやっぱりまずいですか?
業界や業種にもよりますが、基本的にはまずいですよね。多様性を維持するという点でも、体力面や、結婚、出産など女性の特有の事情によってある時期に一気に休職者が出たりとか。
―なるほど、まずいって思えました。男性ばかりは男性ばかりで華も無いしガサツになりそうですけど、女性ばかりでも良くないですね。新卒ならいいけど、中途だったら年齢も偏る可能性がありますね。特に能力のある人って、ある程度の年齢になっていることが多そう。
そうですね。中途の方が偏りが強く出る可能性がありますね。
―それに、相手の印象がわからないって、営業職ではかえって良くない結果になったりしないですかね。やっぱり直接相手を見て、話してこそわかることもたくさんあると思います。
酒井君の言うことはもっともです。そういったデメリットもありますから、やはりブラインド採用とは言っても、選考過程のどこかではブラインドを外す必要があるのかもしれません。もしくは、採用枠を別にして通常の採用方法と並行するしかないですね。結局、どういう方法を使っても採用担当者は大変になっちゃいますけど。
ブラインド採用を上手に活かせるかは企業の努力次第
―ブラインド採用って面白い制度だとは思いますけど、実際のところ導入するのは難しいんじゃないですか?正直、すごく大変そうですし、そこまで頑張ってやらなくともいいように思うんですけど。
そう思いますか?日本企業における多様化の弱さは結構深刻ですよ。それが国際的な競争力に出ているのですが、世界を相手に戦っている大企業くらいしか認識できていないかもしれませんね。
―そうなんですか?
日本が成長していた時代は、製造業が中心でしたから、時間と労働力を投入すればどんどん製品を作ることができたんです。しかし、それくらいは今は多くの国で可能で、もっと安い労働力を持つ国がいくらでもあります。日本ではここしばらく、世界的なイノベーションが出ていないとも言われていますから、イノベーションを引き出すためにもダイバーシティ化を進める必要があるんです。
―ノーベル賞とかは出ているように思うんですが、イノベーションは違うんですか?
ノーベル賞は研究発表からだいぶ時間が経過して評価されるから違いますね。イノベーションとも言えるくらいのインパクトのある商品やサービスをもたらした企業って、今はほとんど海外のIT企業でしょう?日本にも無いわけじゃないですが、先進国、しかも経済大国として売っている国としては物足りないですね。
―そうなんですね。そういう状況が続けば、ダイバーシティ化に進まないといけなくなっていくとエーイさんは見ているんですね。
はい。ですから、必要に迫られてブラインド採用を行う企業も増えてくると思います。
―なるほど。ブラインド採用って対策できるんでしたっけ?就活生は実力勝負になるなら、しっかり力をつけておく必要がありますよね。
そうです。対策と言っても、一般的な就職活動の対策と変わりません。まさに実力勝負となりますから、日頃の努力の積み重ねが重要になってきますね。学歴や過去の実績などの上にあぐらをかいた就職活動は上手く行かなくなるでしょう。
―まだまだブラインド採用の実施企業は多くないとしても、いつ始まるかわからないと思って対策はしておいた方が良さそうですね。就活というか、社会人になるための基礎力をしっかりつけておきたいと思いました。エーイさん、今日は面白いお話をありがとうございました。
ブラインド採用の動向は、今後の就活の中でも注目するべきテーマ
多くの情報を隠して行われるブラインド採用は、海外で様々な事例が報告されており、日本でもダイバーシティ化を進めたり、様々なバイアスを取り除くために導入が始まっています。実力がよりシビアに問われるため、就活生は意識して準備しておくと良いでしょう。また、転職活動時にブラインド採用が出てくる可能性もありますので、今だけでなく今後の動向にも注意が必要です。