EVP(従業員価値提案)を知っていると就活の企業選びが変わってくる

EVPは「従業員価値提案」という意味で、企業が従業員に対して提供する価値を表します。EVPは企業が人材を確保する上で重要と見られており、競争力を高める戦略としても使われます。EVPについて基本的な知識を学び、就活などでの企業選びに活用しましょう。

EVP(従業員価値提案)を知っていると就活の企業選びが変わってくる

EVPについて考えてみよう

「売り手市場」と言われる昨今の就活情勢ですが、しかし企業側が学生を選ぶという図式は大きく変わっていないと感じる就活生は多いのではないでしょうか。しかし、企業側でもEVPという考え方が少しずつ浸透してきており、一方的に企業が学生を選ぶだけでなく、企業も選ばれるための努力を行うようになってきています。

大学生の酒井君は就活に際して、企業のEVPに注目して行ってみるのはどうかと考えています。そこで、まずはアイデアを経営コンサルタントであるK・エーイ氏に聞いてもらうことにしました。

EVPは従業員に対してどのような価値を提案できるかという概念

EVPとは「従業員に提案する価値」

―エーイさん、こんにちは。お時間を出していただいてありがとうございます。

いいえ、構わないですよ。ちょっと余裕のある時でしたし、気分転換にもなりますからね。それで、今日は「EVP」でしたっけ?

―はい。EVPです。EVPに注目して就活をしてみることを就活サークルで提案・議論してみようと思っているのですが、エーイさんはどう思われますか?

悪くないと思いますよ。ただ、そこだけではなくて周辺の背景もよく理解して議論しないとさほど効果的ではないような気がします。酒井君はEVPが何の略か知っていますか?

―確か、「Empolyee Value Proposition」でしたっけ?「従業員に提案する価値」みたいな意味だったと思います。

正解です。ちゃんと勉強していますね。EVPは「従業員価値提案」と言って、「企業が従業員に対してどのような価値を提供できるか」という観点で考えるアプローチを言います。

―よかったです。それにしても、従業員に価値を提供するって考え方をしてくれる企業って、何だか嬉しいですよね。それに、心なしか待遇や労働条件も良いような気がします。それで、EVPが充実している企業を探して就活すると、満足できる就職活動になるのではないかと思っているんです。

なるほど。その考えは間違っていないと思いますが、でも本質的には就職における満足度とEVPはイコールではありませんから、よく考えないといけないのは普通の就活と同じですよ。少しEVPの考え方についてお話しますので、参考にしてみてくださいね。

EVPは企業の人材確保の必要から出てきたもの

若い授業員と肩を組む年配社員

まず、EVPがどうして登場し、注目されるようになってきたでしょうか?酒井君わかりますか?

―そりゃ、従業員を大事にしようというムードになってきたからじゃないですか?

ムードって、すごい曖昧な表現ですね。雰囲気だけで会社は物事を決めたりしませんよ。会社は利益追求組織ですから、利益に関係していないと基本的に動きません。

―じゃあ、EVPが利益になるってことですね。…あ、わかった。人材確保!

正解です。EVPをあえて考える理由は、人材、特に優秀な能力ある人材を確保する必要があるからです。採用のための求人はもちろん、今は一昔前と違い、転職をするのが一般的になってきました。また、多くの人材紹介会社があることからもわかるように、優秀な人材であればスカウトの話も増えてきています。その中で自社に優秀な人材がとどまってくれるように、企業側も戦略的に考えていく必要ができたのです。

タレントプールは新しい採用のカタチとして意識しておくべし

―人材を募集する段階だけでなく、流出を防止するのもEVPの役割なんですね。確かに、経験を積んだ能力ある人が引き抜かれちゃったら痛手ですよね。

そうです。特に今後は、人材の採用に関するコストがどんどん大きくなるでしょうから、人材が定着してくれることのメリットは一層大きくなります。

―なるほど。利益に直結するんですね。雰囲気とか言った自分が恥ずかしいです。

しかし、EVPと言ってもその作り方は様々です。戦略的にEVPを作っていく場合もありますし、既にあったEVPを言葉にしてみる場合もあります。従来は「働きがい」とか「福利厚生」と言われていたものを、より進めて考えて行くのがEVPだと言えるかもしれません。

EVPの具体的な事例

一人一人の希望に対応して充実していくEVP

―でも、EVPって働きがいとか福利厚生とどう違うんでしょうね?僕は福利厚生みたいなものだとばかり思っていました。

それは具体的な事例がいくつかわかると見えてきます。たとえば、某社のEVPでは「従業員が最も価値を置いているところをサポートする」としています。

―これってどういうことですか?

具体的には、「『成長したい』と考えている人には『教育』」を与えたり、「『ワークライフバランス』を優先したい人には『フレックスタイム』」を与えたり、「『キャリアアップ』を目指す人に『公募制度』『社内コンテスト』」を提供するなどの取り組みを行っています。

―なるほど。一人一人の希望に対応するような働き方や福利厚生や社内制度を用意するんですね。

はい。EVPというのはあくまで、完成された概念ではなく、ひとつのビジョンや設計図のようなものです。EVPの方向に従って、働きがいのある仕事の提案や福利厚生を整備していくものです。ですから、決めて終わりではなくて、どんどん洗練させていく必要があります。

―そこが違いなんですね。すると、EVPに注目することで、その企業の従業員に対する姿勢や環境作りなどの方向性が見えてくるということなんですね。

その通りです。EVPがどんなものかは今後、就職活動や転職活動で重要視されるでしょうし、魅了的なEVPを持っているかは求職者だけでなく、株主なども注目するはずです。今後はどんな企業でも人材確保が命題になってきますから、企業の競争力にとって大切な要素として注目されつつあるんです。

―他にはどんなEVPがあるんですか?

たとえば、「子育てを応援する」というEVPもありますし「世界トップレベルのビジネスパーソンを育成する」というEVPもあります。また「家族に喜ばれる企業」というEVPもあって、福利厚生を充実させたりノベルティグッズが多く提供されるなど色んな取り組みが行われています。

―なるほど。ハッキリとそういった方針があると、就職する際にも企業を選びやすいように感じます。自分の仕事や生活に対するスタンスを見つめつつ、魅力的に感じる企業にアプローチしていけますね。

EVPを構成するのは「満足要因」と「衛生要因」

「満足要因」と「衛生要因」

でも、EVPがあれば人材を確保しやすくなり、従業員のモチベーションが上がるというわけではありません。きちんと考え、作り込まれたものでなければ効果が無いのです。

―そうなんですか?

はい。たとえば、「従業員の健康に配慮する」というEVPがあって、その結果「30分の昼寝の導入」が行われたとします。でも、従業員が望んでいるのは「早く仕事を終わらせて帰宅すること」だったりするわけです。

―ちょっとしたすれ違いですね。悪い提案ではないと思うんですけど。

そうです。だから、ちゃんと従業員のニーズを汲み取っていく必要があります。だから、他社の成功事例をそっくりそのまま真似ても上手くはいかないんです。

―なるほど。新たに入社する人はEVPで企業を選べますけど、既に入社している人はEVPで企業を選べないですから、EVPが合わないとかえって満足度が下がる場合もあるんですね。

そういうことです。ちなみに、モチベーションサイクル理論の提案者であるハーズバーグは、「満足要因」と「衛生要因」がモチベーションには重要だと言っています。

―「満足要因」と「衛生要因」?初めて聞く言葉です。

「衛生要因」というのは、それが無いと不満が募るものを言います。その一方で、多くても実はそれほど満足度に影響しないものです。たとえば残業が少ないことや、快適なオフィス、程度にもよりますが給与や休日なども衛生要因に該当します。

―すると「満足要因」というのは何ですか?僕は衛生要因が全てのように思えたんですが。

満足要因というのは、仕事そのものがもたらす満足感の要素です。これは多ければ多いほど満足できるタイプの要素です。たとえば「目標達成」や「権限委譲」、「承認」、「共感」などがありますね。

―わかるような、わからないような。

ゲームで例えるなら、「衛生要因」は操作性や難易度、価格などで、「満足要因」はレベルアップの間隔やイベント、キャラクターやアイテムの種類や数などですね。

―あ、それなら理解できる気がします。こういう所からモチベーションって確かに湧いたり萎えたりしますよね。

そうです。EVPを考えて、実際の制度や社内の文化に落としていく上では、満足要因と衛生要因を従業員のニーズや働き方に応じてバランス良く整備していく必要があるんですね。そのためには、一部の人が一方的に決めるのではなく、アンケートを実施したり、社内の声をしっかり集めるといった調査が必要不可欠です。

EVPには「現状肯定」という落とし穴がある

EVPには「現状肯定」という落とし穴がある

そして、EVPには落とし穴があります。それは「現状肯定」型のEVPです。

―何ですか?現状肯定形のEVPって?

これは、企業においてEVPが必要だと企業のトップや人事の人が感じてEVPを作るのですが、企業の現状からEVPを作成してしまうケースです。人事評価制度や福利厚生などから、「我が社のEVPはこうだ!」と言って作るケースは実は多いんですね。

―でも、今まで従業員のことを考えて制度を作ってきたのだから、それをEVPにするのは自然なことだと思うんですが違うんですか?

EVPにあたる方針が明確で、それに沿って整備を続けてきた企業なら良いのですが、現在の状況をとりあえず肯定する形でEVPにまとめるのは問題があります。現在の状況からEVPを作ると、EVPが最初から完成していて、それ以降は進展しなくなるんです。

―あれ?EVPって設計図みたいなものだから、そこに向かって色々整備されるんですよね?

はい。それがEVPのあるべき形です。現状肯定形のEVPは、現状の制度を肯定して表現してしまうため、それ以上は変化しにくくなります。しかも、そのEVPや制度が従業員に受け入れられているかを度外視している場合すらあります。

―なるほど。EVPを作ることそのものが目的になってしまっている感じですね。

そうなんです。ですから、EVPがあるからと言って、それが必ずしも魅力的な企業であるとは限らない部分があるんです。大事なのはEVPに基づいた取り組みですし、それを従業員がどのように捉えているからです。企業もEVPに向かって着実に制度のブラッシュアップなど取り組んでいくことが運用上は大切なんですね。

EVPは今後の企業の競争力を左右する

EVPの差で企業の人材にも差が出る

―EVPに着目して就活しようと思っていましたが、簡単では無さそうですね。

そうですね。実際に企業の内部まで見通すというのは難しい部分がありますからね。

―企業で働く従業員のEVPへの満足度などを知る方法ってありませんか?

一般的な情報としては出ていないでしょうから、OB訪問やリクルーターなどを利用してみてはどうでしょう?EVPをどれほど実感しているか聞いてみたら、ある程度のことはわかると思いますよ。

OB・OG訪問の質問例と行く前に準備しておくこと

―なるほど。その手がありましたか。

もしかすると自社のEVPを知らないという従業員もまだまだ多いかもしれませんが、今後はEVPの浸透は企業にとっても人材確保のために重要なはずです。特に、欧米など海外から働きに来る人はEVPを重視していますから、競争力を高めていく上でもEVPは大事ですよ。

―海外の人はEVPを重要視するんですか?

EVPは企業のブランディングでもありますからね。報酬が同じ程度なら、当然他の要素で判断しなくてはなりません。また、海外の人は「どの企業か」よりも「どんな仕事でどんな環境か」を重要視する傾向がありますので、EVPによって働く環境がイメージしやすくなるのはプラスになるでしょう。

―働き手が少なくなる中で、外国人労働者や様々なタイプの従業員が増えてくると言いますけど、EVPはそういう中で魅力的な提案になるんでしょうね。

そうですね。ダイバーシティ化が進むほど、EVPは重要になると人事の担当者や専門家は予想していますね。人材を確保して競争力を維持し、高めていくためにも、「選ばれる企業」になることは、これからの企業にとって大きな課題だと言えますし、それだけにEVPの整備が望まれています。

―就活でもマッチングが大事だと言いますし、EVPはそのマッチングを良いものにする上で重要な要素だという感じがします。「条件がいい」EVPというよりも、本当に自分にあったEVPを持った企業を探した方が働きやすく、定着できそうですね。今日はとても参考になりました。エーイさん、ありがとうございました!

EVPは就活でも着目してみよう

EVPは、「企業が従業員に対してどのような価値を提案できるか」という概念です。EVPによって、企業内の風土や環境整備の方針が明確になりますし、また外部に対しての強いアピールにもなります。魅力的なEVPを持ち、その実現に取り組んでいる企業は人材確保の上で有利になり、競争力の確保・強化につながる可能性があります。就活などで企業を調べる際には、EVPにも注目してみると良いでしょう。