産業保健師とはどういう職業なのか
保健師という職業に対して生真面目で堅実といったイメージを持つ方は多いでしょう。事実、全体の6割にも上る保健師は公務員として働いているため、そのイメージは間違いとは言い切れません。また、保健師の方と接する機会というのは健康診断の時などが多く、看護師との違いがよく分かっていない方の方がほとんどでしょう。
保健師の中でも企業の健康を管理する「産業保健師」という職業が、どのような仕事をしているのかというのは案外知らないものです。今回はこの産業保健師という職業がどのような仕事をしていて、企業の中でどのような役割を担っているのかについてご紹介します。
そもそも保健師とは?
そもそも保健師とは怪我や病気の予防が主な仕事内容で、大きく分けて3種類あります。
- 産業保健師:民間企業に勤めており、産業医などと連携して社員の健康管理を行う。
- 行政保健師:市区町村の役所や全国の保健所で公務員として働く。
- 学校保健師:いわゆる養護教諭で、生徒だけでなく学校で働く教職員の健康管理も行う。
簡単にいうと上記のような違いがあり、特に産業保健師は就職先として人気が高いという特徴があります。
産業保健師になるためには国家試験に合格する必要がある
保健師になるには看護系の大学か専門学校に進学して学び、看護師国家試験と保健師国家試験に合格しなくてはいけません。看護師と保健師の試験を同時に受験できますが、このときに保健師資格試験だけ合格しても資格は何一つ手に入りません。その為、看護師資格の勉強に専念し軌道に乗ったところで看護師資格の勉強に取り組むことが良いでしょう。
産業保健師の求人は少ないけれど倍率は高い
保健師の中でも特に人気が高いのが産業保健師ですが、求人は少なく倍率が高いです。労働安全衛生法により、常時50人以上の従業員を有する事務所では産業医の選任が義務付けられていますが、保健師や看護師には選任規定はありません。従業員が1,000人以上の事業所のほとんどには保健師や看護師が選任されていますが、300人以下の事業所では配置していないところも多くあります。
また、産業保健師の給与は大企業に属することが多いため、高給になる可能性が高く、勤務も正社員に合わせて残業が少なかったり土日祝が休みだったりすることもあります。公務員である行政保健師と比べても好待遇であることから、産業保健師への転身を考えている方が多い状況にもあるため、高い倍率になっています。
産業保健師の役割とは
産業保健医の一番の仕事は「社員の健康を守る」ことです。身体はもちろん、精神的な健康も良好なものにするために、社員の相談に乗ったり面談をしたりして仕事量や労働環境などの改善・調整を促進します。産業保健師は1人で何かを成すのではなく、産業医や衛生管理者などか助言をもらったり連携したりして企業内の従業員の健康管理に努めます。社員の健康を守るために働きやすい企業へと変えていくことが大事な仕事といえます。
産業保健師の仕事
産業保健師の仕事は大きく分けて5つの業務があり、各業務を全うすることで従業員の健康を管理し長く元気に働ける環境の整備をしていきます。また、以下の業務の他にも従業員から健康についての相談があれば随時対応したり、緊急時には応急処置を施したりします。そのため、どんな時でも適切な処置ができるように日々学ばなくてはいけない職業です。
1.健康診断の実施
産業保健師の業務の中で一番重要なのは従業員の健康を守ることです。そのためにも従業員の健康状態を確認し、病気の早期発見に繋がる健康診断を実施しています。健康診断に至るまでの流れは次のようなステップを踏みます。
健康診断の流れ
- 健康診断の企画
- 実施計画の作成・承認
- 健康診断への準備
- 実施
- 結果内容の確認
- 判定および今後の措置のまとめ
- フィードバック
2.保健指導
健康診断の結果により受診者の健康状態を認識してもらう必要があるため、保健師は健康診断で何か問題・異常が見つかった従業員に対して面談・指導を行います。
近年問題になっている自覚症状がないままに進行してしまう生活習慣病は、名前の通り生活習慣に密接に関係している病気です。元気に過ごしてもらうためにも、健康診断の診断結果に出やすいメタボリックシンドロームや高血圧といった健康問題を生活習慣から指導していきます。
3.集団教育
産業保健師は検査を実施するだけでなく、健康診断などから得られた情報を分析して従業員各位に安全と健康に関する知識を伝えていかねばなりません。そうすることにより病気やケガの予防へとつながり企業が健康状態を保つことにつながります。その予防の一環として禁煙に関する対策案や相談にも産業保健師は活躍しています。
4.メンタルヘルス対策
病気やケガは身体的なものだけでなく、精神的なものもあります。ストレスや無理な生活による自殺やメンタル不調の予防は、年々その重要性を増しています。産業保健師はそのような精神面でのサポートを実施し改善策や方法論の提示をします。医学的根拠に基づいたメンタルヘルスを常時行っていくことで一定の効果が見込め、従業員本人と2人で面談をすることで職場環境の問題が見えてくることがあります。
5.過重労働対策
近年よく取り上げられている長時間労働や過重労働の管理という問題は、個々人の問題だけでなく企業がしっかりと管理すべきことです。そうした管理に対して産業保健師はあらかじめ過重労働に当たる可能性のある方に対して面談を行いその内容を報告します。その結果として仕事の分配や企業として行える業務の範囲の確定につながります。このような管理は会社が健康で長生きするために必要不可欠な要素と言えるでしょう。
産業保健師に必要な能力
産業保健師に必要な能力とは一体何なのでしょうか。産業保健師に限らず、仕事は淡々とこなせばよいのではなく業務をこなすうえで求められることがあります。産業保健師に求められることは大きく分けて3つありますが、そのどれかが欠けているからと言って産業保健師になれないということではありません。あくまで「適性がある」程度のものですが、ぜひ参考にしてみてください。
幅広い知識
企業の医務室は非常勤の医師と常勤の保健師がいるのが一般的です。従業員の体調不良や負傷は突発的に起こることがほとんどなので、医師がいないからといって保健師が何もしないということは出来ません。傷病の予防法に加え、治療法や応急手当の仕方など、保健師には幅広い知識・技術が求められます。
医学的根拠に基づく判断力
企業の保健室はあくまで一時的なものですので、病院並みの備品が揃っていません。保健師は患者の状態を把握して医療機関の手配や医師の手配といった判断をしなければなりません。経験や看護師の資格取得のために学んだ知識をフル活用しなくてはいけない、非常に重要な場面です。判断を誤ると健康状態を害してしまう可能性がそれだけ高くなりますので、冷静に医学的な判断を下せるかが保健師としての力量が分かる部分ともいえます。
カウンセリング能力
コミュニケーション能力ではなく、患者の心身の健康状態を適切に把握するカウンセリング能力が重要視されています。相談に乗るといったカウンセリングとは言えない行為でも、心のバランスを取るのに役立つことがあります。同僚に相談するような気軽さ、会社のことを知っていても他人に口外しないという安心感から、企業に常駐する保健師によるカウンセリング行為は必要不可欠な存在となっています。
産業保健師の待遇
産業保健師はその企業の正社員と同様の扱いを受けますので、派遣やアルバイトに比べると良い待遇を期待できるでしょう。また一般公開していない情報も多分にあるので折り込みチラシや企業の広報紙に目を光らせておくとよいでしょう。
産業保健師の平均年収は約530万円と言われています。しかし年収が1000万円を超える方がいる一方で400万円前後の方がいますので、入社後の昇給に関してはその企業の将来性を踏まえて考えなければなりません。
福利厚生に関する扱いは企業の社員と同等の扱いが一般的です。社員専用の施設や旅行、割り微視サービスに関しても同等の扱いが受けられるかは確認すべき項目でしょう。
産業保健師は今後も需要が増え続ける希少な職業
産業保健師は1つのところに長く勤める人が多く、そのため常に求人が少ない狭き門になっています。また、他の保健師と比べても給料がよく不足ない待遇を望めることもありますので、産業保健師人気に拍車をかけています。
しかし、産業保健師の必要性というのは看護師や医師にはできない分野を携わっている職種であり、ビジネスを維持するのには必要な職です。近年とみに取り上げられるようになったメンタルヘルス問題を考えると、今後も需要は増える一方でしょう。