社会問題化する「雇い止め」
今の日本では、契約社員、派遣社員などの「非正規社員(職員)」が増えていると言いますが、この非正規社員の労働問題のひとつが「雇い止め」です。正職員と比較すると様々な形で不安定になりやすい非正規の労働者は、企業の労働力の調整弁として自由に増やしたり減らしたりできると考えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。
非正規の労働者に対して、契約更新などは契約更新の前だけでなく、事前に伝えておくことなどが求められているのですが、それが履行されないケースも多く、次の就業準備ができないまま急に仕事を失う労働者が増えて社会問題にもなっています。
「雇い止め」についての定義やルールは、企業の人事関係者だけでなく、非正規で働く人や、就労する全ての人がしっかり理解しておくべきことと言えます。
「雇い止め」とはどういう意味?
「雇止め」を簡単に説明すると、「契約期間の定めのある従業員に対し、事業主が契約を更新しないこと」です。このように聞けば、特に問題は無いように思えますが、契約期間がある場合には、労働者は生活のため、次の仕事を検討しなければなりません。
しかし、契約続行の意志が会社側にある場合には、次の仕事に就くことができません。そのため、雇止めが不当な形で行われると、労働者の雇用環境を不安定にする一因となってしまいます。
日本では期間雇用契約の締結について、労働基準法では原則3年が上限となっているのみであり、上限の他は法的には特に決まりがない状態です。3年を上限としているものの、その期間よりもずっと短い契約期間で調整しながら業務量に合わせた人員体制を整えていることも少なくありません。これは企業には良くとも、労働者としては困った問題です。
不当な雇止めから労働者を守るため、厚生労働省では以下の基準を定めています(注1)。
- 契約を更新しない場合は、使用者は労働者に判断の基準や根拠を示すこと
- 長期の契約(3回以上の更新もしくは1年以上の継続雇用)の場合は、契約期間満了の30日前までに契約を更新しない旨を通知すること
法律上の「雇い止め」と「解雇」の違い
「雇止め」はいわゆる「解雇」のようなものと捉えられている場合もありますが、法律上は、「雇止め」が「契約期間の終了により発生する契約更新がない状況」を示すのに対して、「解雇」は「契約期間内に、何かしらの理由によって発生するもの」となります。つまり、契約期間を満了するか、その途中で雇用契約が打ち切られるかの違いです。
しかし、長期契約(3回以上の更新もしくは1年以上の継続雇用)をしている従業員の立場に立ってみると、しっかり働いており、仕事もあるようなら次も当然更新されることが期待されます。その期待が裏切られるなら、猶予が決まっているだけで解雇と大きな違いはありません。
労働基準法では、解雇について、客観的に合理的と言える理由がなく、社会通念上も認められないと思われるケースにおいては解雇が無効にできることになっています。逆に言えば、解雇するには合理的な理由が必要になります。雇止めについても同様に、合理的と考えられる理由がなければならないと考えられていて、実際に法廷で雇い止めの撤回命令が出た判例もあります。
雇止めの場合、解雇と異なるのは、失業に伴う退職金などの会社側からの補償がないことです。裁判の結果次第では慰謝料の形で受け取る場合もありますが、もしも雇止めに際して退職金などの提案があり、受け取ってしまうと、了承したものと受け取られます。
雇い止めされないためのポイント
不当に雇い止めをされないためには、どのような点に注意するべきか、確認しておきたいポイントは3つあります。
1.契約期間、契約内容について把握しておく
更新回数が増え、契約年数が長くなってくるにつれて、当然雇用契約の延長が行われると思い込んでしまいます。すると、契約期間や契約内容について確認を怠ってしまい、知らない間に契約期間や契約内容に違いが出てくることが考えられます。雇い止めに関する通知が自分には突然に思えても、実は法的に正しいタイミングである場合がほとんどですので、契約期間や契約内容はしっかり確認・把握しておきましょう。
2.普段からしっかり働く
雇い止めが発生する背景には、会社の経営事情などの致し方ない問題もありますが、労働者に対しての会社側からの評価が低い場合も少なくありません。解雇は事が荒立つために雇い止めにしようということもあります。会社からしっかり評価され、必要とされるように普段からしっかり働くようにしましょう。特に契約更新前の3か月ほどはしっかりした仕事ぶりを見せたいものです。
3.契約更新時の面接を大事に
契約更新の際には、面接が行われ、書類手続きなどをすることになりますが、その際にも気持ちのよい反応をすることが大事です。できるだけ、「次回の契約更新の予定」や「契約期間の延長は可能か」などを確認しておきましょう。契約延長ができればそれが雇用環境の安定に一番の結果です。
「言質を取る」と言うと少しずるい感じはしますが、契約時に会社側がどう考えていたかは、雇い止めについて抗議をする、法廷で争うことになった場合に強い武器になります。
雇い止めへの対処方法は5つ
雇い止めは通知が30日以上前に行われるルールになっていますが、仕事もしながら30日で対応できることは限られます。何かアクションをするなら、通知が来てから色々調べていると間に合わないこともありますので気を付けてください。万が一、雇い止めが生じそうになった場合の対処方法も頭に入れておきましょう。
1.抗議をする
雇い止めに対して納得がいかない、不当だと考えるのであれば、まずは使用者に雇い止めの撤回を希望しており、働き続けたいことを示して抗議する必要があります。しっかり話し合いの場を設けていくことはもちろん、形に残るように、書面にしてコピーをとり、内容証明郵便で送付するのが効果的です。
その際、気持ちだけでは十分な訴えになりませんので、通知のルールや契約時の更新に関する情報などを踏まえた上で話し合いに臨んでください。
2.退職金などは受け取らない
雇い止めの撤回を求めるなら、一度でも契約終了の意志表示と取られる行いはするべきではありません。退職金にあたるようなものを請求したり、受け取ることがないように注意してください。
3.証明書を求める
企業から従業員に雇い止めの予告がある時には、雇い止めの理由が記載された証明書を従業員側から企業に請求することが可能です。その理由が「合理的でない」「社会通念上妥当ではない」と考えられる場合には、専門家や専門機関などに相談することで撤回させることも可能です。
4.労働基準監督署に相談する
会社側との直接の話し合いでは折り合いがつかない場合には、労働基準監督署の相談窓口で相談しましょう。労働基準監督署は雇い止めに関して不当であることが客観的に認められた場合には、会社に対して指導を行ってくれます。
5.弁護士に相談する
最も強力なものが弁護士に相談することです。相談料なども必要になるため敷居が高く感じられますが、労働問題に強い弁護士なら、慰謝料や法廷費用などの形で必要な費用なども会社に請求してくれますので、そこまで大きなコストにはなりません。ただし、その後の会社との関係において気まずくなる可能性がありますので注意してください。
雇い止めは会社都合の退職扱い
雇い止めが発生した場合に気になるのが、実際に仕事を失ってしまった後の生活です。基本的に契約社員や派遣社員の場合、雇い止めと見られるケースでは「会社都合」の退職扱いになりますので、最低限必要な条件さえ満たしていれば、契約期間満了後にすぐに失業保険の受給を受けることができるようになります。
ただし、注意しなくてはならないのが「契約期間満了の全てが会社都合ではない」ということです。自分の方から契約の終了を申し出たケースであったり、派遣会社などから新しい仕事の紹介があったにもかかわらず拒否を続けた結果、失業状態になっているというケースでは「自己都合」とみなされます。
雇い止めは仕方がないという考えは間違い
雇い止めは契約期間の終了による、再契約のない状態です。それは契約期間を決めて労働契約をしている以上仕方がないことですが、中にはルールをきちんと知らず、もしくはあえて守らずに労働者に不当な扱いをしていることもあります。
「雇い止めは仕方がない」と思っていると、不当な扱いを受けていることにも気づかないまま職を失ってしまうことにもなりかねませんので、不当であると感じられた時には、会社側ときちんと話し合い、しかるべき対処をするようにしましょう。
会社側も雇い止めに関する理解が不足していると思わぬトラブルになりますので、貢献してくれた従業員のその後の生活にも配慮する姿勢をもって対処してください。