ノー残業デーが目指す真の目的
日本人は働き過ぎだと良く言われますが、日本では昔からノー残業デーという取り組みが自主的に行われています。このような取り組みがあることが、残業が多いことの裏返しでもあるのですが、取り組み自体は良いもので、一定の成果を挙げてきました。
しかし近年、社会の様々な価値観が変換されつつあり、それぞれの職場環境なども大きく変わってきています。その中で「ノー残業デーには意味がない」という声も増えつつあります。
「ノー残業デー」を考えることは、自分のワークライフバランスや企業の風土を考えることにもつながります。ここではノー残業デーの目的や意味、メリット・デメリットなどの基本的なことについてまとめまていきます。
ノー残業デーとはどんな取り組み?何曜日のことを指す?
テレビの該当インタビューなどで時折耳にすることがある「ノー残業デー」という言葉ですが、これは文字通り「残業をしない(させない)日」ということで、各企業が自主的に決めている日のことを言います(注1)。官公庁で水曜日に設定していることや、週のまん中に息抜きをして週の後半も頑張るという意味合いで水曜日が設定されていることが多いです。
これらは法律上の決まりではなく、企業の個別の取り組みですので、必須ではなく、曜日も自由に設定することが可能です。
中には年に数回の「ノー残業ウィーク」を設定している企業などもあります。
ノー残業デーの目的について
やるべき仕事があったとしても今日は仕事をしない(させない)ノー残業デーが目指す目的としては、以下のようなものがあります。
1 プライベートを充実させる
従業員のプライベートを充実させるために、会社に縛られる時間を減らすことは大切なことです。残業がない日を設定することで、趣味活動や周りの人々との交際、家族サービス、習い事など、様々な取り組みを行い、生活の質を高める時間を持つことができます。
2 業務の効率化を考えさせる
残業ができないという時間的な制約は、仕事量によっては普段と同じような方法での仕事の完了を難しくします。そのため、時間内で行うために業務の効率化を考えるようになり、そうしたノウハウが企業内に蓄積され、生産性の高い組織を作ることを目指します。
3 人件費の削減
こちらは企業側の観点となりますが、残業代は割増賃金となりますので、自由に残業ができる状態や残業する人が多い状態は好ましくありません。ノー残業デーを作ることによって、人件費を一部コントロールすることができます。
ノー残業デーに期待される効果
ノー残業デーを実施することによって、企業側にとっても社員にとっても満足度の高い労働の状態になることを期待しています。
良い労働環境は企業活動の質を高めて利益を生み出す源泉となります。また「残業をしない」という目的に向かって組織がひとつになり、一体感を醸成することにもつながります。
取り組みの結果、社員の生産性や生活の質も向上し、企業も利益の出やすい体質を作ることができるようになり、企業の継続的発展の土台を作る効果が期待されています。
ノー残業デーはプレミアムフライデーとは何が違う?
政府が現在推進している「プレミアムフライデー」という制度があります(注2)。これは毎月の最終の金曜日の退勤時間を15時に設定することによって、社員の自由な時間を増やしてワークライフバランスを改善し、また消費の拡大につなげようとする試みです。こちらもノー残業デーとは異なり、政府は推奨・推進するのみで、実施義務や罰則などはありません。
ノー残業デーとの違いとしては、月に1回ということや、「残業をしない」からさらに推し進めて「早い時間に退社する」ようにしているのがポイントです。
注意したいのが、「ノー残業デー」なら残業が減るのですが、プレミアムフライデーの場合には、所定の労働時間が減るので、その分の労働時間を振り分ける必要が生じるという点です。週に40時間と労働契約をしているのに、プレミアムフライデーだからと38時間にしてしまうと、法律上は契約違反でペナルティの対象となってしまいます。そのため、その分の労働時間をどうするかを必ず決めておく必要があります。
ノー残業デーのメリットとデメリット
ノー残業デーを実施することで、以下のようなメリット・デメリットがあります。
ノー残業デーのメリット
- 社員のモチベーションが上がる
- 社員の生活の質が高まる
- 社員のロイヤルティ(企業への満足度・忠誠度)が高まる
- 業務の効率化を考える機会となる
- 人件費や種々のコストが削減できる
ノー残業デーのデメリット
- 仕事が終わらない場合も多く、仕事を持ち帰る人もいる
- 残業が他の日に転換されるケースも少なくない
- 緊急な仕事に対応できない
- 環境や時間の変化により形ばかりのものとなりやすい
- 企業の分野や職種によっては合わずに失敗しやすい
- 人材採用時に「残業の多い会社」をイメージされる
ノー残業デーが成功した場合のメリットはとても大きいのですが、その一方で失敗しやすい面もあり、またあえて取り組むことによってトラブルを招くという側面が社会の変化と共に強まっているため、「時代遅れ」とする意見も少なくないのが実情です。ノー残業デーは企業と社員がともにメリットやデメリットを正しく理解する必要があります。
ノー残業デーを設けたのに上手くいかなかった失敗例
せっかく残業をしないで定時に帰るノー残業デーを設けたのに、うまく回らなかった多くの失敗例があります。よくある失敗について紹介します。
1 業務によっては合わない
ノー残業デーは、業務によっては合いません。典型的なのが、企画をする部署や、研究開発部署、デザイナーなどの業務です。クリエイティブな仕事は、時間がかかる場合とかからない場合の差が非常に大きく、納期が近い場合などは残業をせざるを得ない場合が多いです。
また、システム担当者などは、システムに障害があれば時間を問わず対応をしなければなりません。インターネットの時代となり、24時間休みなく動いているサービスやシステムが増える中、ノー残業デーだから対応できないということがあってはなりません。
管理職をはじめとするホワイトカラーの賃金について、残業に含めるべきではないという「ホワイトカラーエグゼンプション」が提案・実施されても、ホワイトカラーの残業がそれほど減っているわけではありません(注3)。これは単純に残業を減らそうとしても、業務量によっては限界があることを意味しています。
2 誰も帰らない(特に上司)
ノー残業デーを企業で実施していたとしても、誰も帰らないこともあります。社内でコンセンサス(同意)が十分にできていないことが最大の理由ですが、若い社員は上司が帰らないと申し訳ない気持ちから動けず、また上司は抱えている仕事が多かったり、早く帰ろうとすることを格好悪く思うのか帰るに帰れないことがあります。そのようにして互いに牽制し合い、誰も帰らないことも考えられるのです。
3 全社で行う必要がある
支社や支店があるような会社の場合、一部の支社や支店でノー残業デーを実施すると、やり取りをしている他の支社や支店のサービス内容に影響が出てしまう場合があり、時にクレームの対象となってしまいます。行うのであれば、全社で取り決めて行う方が無難です。
4 結局社内の付き合いが生じる
この日は皆が早く帰れるということを利用し、この日に社内の様々な用事が入ることも多いです。たまに飲み会がある程度であれば許容範囲ですが、上司との面談や部署の勉強会など、場所を会社から外に移すだけで、上司や同僚と共に時間を過ごすようになるなら意味がありません。
5 残業をしたい人が抵抗する
ノー残業デーを作ったとしても、中には残業をしたい人もいます。特に基本の賃金が低い企業の場合には、残業代を収入の中で頼りにしている場合や働くことに生きがいを感じている人もいます。そのため、そういった人々が抵抗したり、残業が必要なムードを社内に蔓延させるために失敗することも少なくありません。賃金水準が適切かどうか、また普段から残業の多い人がどういう人か、よく確認してから行う必要があります。
6 隠れて仕事を家に持ち帰る人が出てくる
今日はノー残業デーだから早く帰るために一生懸命に頑張ったけれど、仕事を終わらせることができなかった、明日の会議の資料作りはやってしまわなければならない…という事態になったとき、少なからず仕事を家に持ち帰る人が出てきます。こういった場合、残業することや仕事を家に持ち帰ることを認めるのではなく、会議の時間を遅らせるか、必要な説明は資料ではなく口頭で行うなどの臨機応変な対応を考えるべきです。
ノー残業デーの効果は取り組み続けることで現れる
ノー残業デーは残業のない日として個人の働き方や企業活動に大きな影響を与えますが、ただ実施しても上手くいくものではありません。事業分野や各個人の職種、社会情勢などを幅広く考えた上で実施を検討するべきで、成功のためにはノウハウも必要となります。ワークライフバランスの改善のための特効薬のようなものではありません。
ノー残業デーそのものは、様々なメリット・効果が期待できる取り組みですが、その意味を十分に理解して全社一丸となって取り組む企業風土がなければ無意味となり、批判の対象となってしまいます。これはプレミアムフライデーについても同じことです。
ノー残業デーそのものに意味の有無を求めるのではなく、その取り組み方こそが大切です。理想を掲げるだけで後は各個人に任せるようでは、まず上手くいきません。組織的な計画と取り組み、支援が必要になる全社プロジェクトになりますし、関係者がノー残業デーのあり方や目指すべきところを共有し、取り組み続けていくことが重要となります。
参考文献
- 注1:厚生労働省「所定外労働時間の削減」
- 注2:経済産業省「プレミアムフライデーの実施方針・ロゴマークが決定しました」
- 注3:独立行政法人労働政策研究・研修機構「ホワイトカラー・エグゼンプションの日本企業への適合可能性」