働き方改革を目指す企業のための職場意識改善助成金
連日のようにニュースや新聞などのメディアで見かける「働き方改革」ですが、わかってはいても実際の実施にあたっては、様々なハードルを感じる企業も多いです。
その中でも、従業員に休日を積極的に与えることは、事業活動が停滞してしまうリスクがあるため、わかってはいてもなかなか実施に移しにくい内容となっており、特に人材や資本に余裕のない中小企業においてその実施が困難になっています。
その問題の解決のために実施されているのが職場意識改善助成金です。職場意識改善助成金の詳しい内容について理解し、自社への適用を検討してみましょう。
職場意識改善助成金とは何か
職場意識改善助成金の特徴は、有給休暇の取得や所定外労働時間の削減などを目的として、中小企業であればほとんどの企業において申請が可能な助成金です。そのために必要な設備投資や研修、啓発などにかかった費用の一部を助成金として受けることができるようになっています(注1)。
職場の労働環境を取り巻く様々な問題に対処するため、2017年現在で5つのコースが設定されており、自社に合ったコースで助成金の申請を行うことができるようになっています。
1 職場環境改善コース
職場環境改善コースは、労働時間などの設定改善により、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を図る中小企業事業主に必要な費用の一部をサポートします(注2)。評価期間中の所定外労働時間の削減なら5時間以上、年次有給休暇の取得日数なら4日以上の増加を目標とします。
2 テレワークコース
テレワークコースは、ワークライフバランス向上のため、在宅や通常の勤務先外での就業(テレワーク)を推進する中小企業事業主に実施費用の一部を助成するコースです(注3)。評価期間中の実施目標としては、対象労働者全員がテレワークの実施を週1回以上とすることや、職場環境改善コースと同様、有給取得の増加や所定外労働時間の削減などが求められます。
3 勤務間インターバル導入コース
勤務間インターバル導入コースでは、勤務間インターバルの導入によって過重労働の防止や長時間労働の抑制に取り組む企業に対し、実施に要した費用の一部をサポートします(注4)。ここで言う勤務間インターバルは、休息時間数ではなく、就業規則などの定めにおいて「終業から次の始業までの休息時間を確保することを定めているもの」と定義されています。ルールがあるだけでなく、それが実際に運用され、インターバルが「確保」されていることが大切になります。
4 所定労働時間短縮コース
所定労働時間短縮コースは、労働時間等の設定の改善で所定労働時間の短縮に取り組む中小企業主に実施費用の一部を助成するものとなっています(注5)。労働者の生活や健康に配慮しながら、より良い状態に改善することが求められます。
5 時間外労働上限設定コース
時間外労働上限設定コースは、時間外労働の上限設定によって職場環境を改善しようと取り組む中小企業事業主を助成金によりサポートするコースです(注6)。各事業場における労働時間、年次有給休暇などに関する規定をより良いものとし、実際に使いやすくすることが求められます。
職場意識改善助成金の対象となる企業
職場意識改善助成金の対象となるのは、基本的には職場意識改善のために取り組む意欲のある全ての中小企業です。加えて、コースごとに必要な要件がありますので、自社に合ったものがあれば活用してみると良いでしょう。
職場環境改善コース
- 労働者災害補償保険の適用事業主
- 事業開始時の労働者の年次有給休暇の年間平均取得日数が13日以下かつ月間平均所定外労働時間数が10時間以上である事業主
テレワークコース
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- テレワークを新規で導入する事業主であること(申請時点で試験導入をしており、継続活用を考えている事業主を含む)
勤務間インターバル導入コース
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 勤務間インターバルを導入していない事業場
- 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
- 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
所定労働時間短縮コース
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 労働基準法の特例として法定労働時間が週 44 時間とされており、かつ、所定労働時間が週40時間を超え週 44 時間以下の事業場(商業、映画・演劇などの興行事業、保健衛生業、接客娯楽業などが該当)を有する中小企業事業主
時間外労働上限設定コース
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」に規定する限度時間を超える時間外・休日労働に関する協定を締結している事業場を有する中小企業事業主
職場意識改善助成金の支給額はどれくらい?
職場意識改善への取り組みによって得られる助成金の金額は、取組みに要した費用の一部が、成果目標の達成状況に応じて支給されます。
職場意識改善助成金の支給額
評価期間中の達成率に応じて、支給対象の取組みに要した費用の1/2~3/4が支給されます。
コースによって補助率や上限額には違いがありますが、一企業あたりの上限としては最大で150万円の助成金を受けることが可能です。
職場意識改善助成金の支給対象となる取り組み
支給対象となる取り組みはコースによって違いがありますが、主な取り組みとして以下が該当します。
- 担当者、対象者に対する教育・研修費用
- 専門家による組織のコンサルティング費用
- 労務管理用の機器、ソフトウェアなどの導入・更新
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- テレワークのための通信機器やサービスの導入・更新
- 生産性向上に寄与する機器や設備の導入・更新
- 上記や所定外労働時間、有給休暇の改善に関連する様々な諸経費
通常業務上で使用されているようなパソコンやタブレット、スマートフォンなどの一般的な設備や機器は支給対象にならないため注意が必要です。
また、目標達成の度合いによっては支給対象から外される項目もあります。リース契約などで評価期間を超えた契約になっている場合は、評価期間中の経費のみが対象になる点にも注意した方が良いでしょう。
職場意識改善助成金の申請手順
助成金の支給条件も申請も、現在は制度の普及のために難易度が低くなっており、使いやすい制度になっています。
申請先
職場意識改善助成金の申請先は、基本的には各都道府県の労働局の雇用環境・均等部企画課になります。ただし、テレワークコースだけはテレワーク相談センターへの申請が必要です。
申請手順
自社の状況に合わせて申請するコースを選んで、支給対象になる取り組みを検討し、職場意識改善助成金事業実施承認申請書とそのための実施計画を提出します。
計画書には、現在の職場の状況や計画している内容、対象となっている事業場について記載します。スケジュールは大まかな時期で大丈夫ですが、コースごとに設定されている申請期限内に申請する必要があります。それぞれのコースの申請期限は年度によって異なりますので、必ず申請先に確認してください。
その後、定められている評価期間中に計画を実施に移します。失敗してもペナルティはありませんが、再度の申請の際に断られる可能性もあるため、もし難しい状況が生じた場合は速やかに申し出るようにしてください。
取組みが完了したら、その結果と成果目標の達成状況について書類を作って報告します。この時、目標達成を証明するための必要書類があれば、全て準備して一括で報告します。
職場意識改善助成金を利用して従業員満足度を高めよう
厳しい経営環境下にある中小企業ですが、それだけに人材は宝と言えます。宝である従業員の健康や生活に配慮し、より良い労働環境を作るために事業主も努力をし続ける必要があります。
実際にはそれを理解していてもコストの問題からなかなか一歩を踏み出せないという事業主も過去には多かったですが、職場意識改善助成金はそうした一歩を踏み出す支えになります。今は比較的申請も評価も簡単になっています。早めに利用し、職場環境の改善を行うことで、従業員満足度も向上し、事業の存続や拡大に有効に作用するでしょう。
参考文献
- 注1:厚生労働省「労働時間等の設定の改善」
- 注2:厚生労働省「職場意識改善助成金(職場環境改善コース)」
- 注3:厚生労働省「職場意識改善助成金(テレワークコース)」
- 注4:厚生労働省「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」
- 注5:厚生労働省「職場意識改善助成金(所定労働時間短縮コース)」
- 注6:厚生労働省「職場意識改善助成金(時間外労働上限設定コース)」