タレントプールは新しい採用のカタチとして意識しておくべし
タレントプールという採用のための仕組みが注目されるようになってきました。個人との接触を一回きりで終わらさず、継続的に続けながら必要に応じて求人のアプローチを取ります。うまく仕組みを理解しておけば、就活や求人に活用できるでしょう。
タレントプールは採用の新しい考え方
就職活動をしていると、採用される人と採用されない人がどうしても出てくるものですが、採用されなかった場合は二度とその企業の門をくぐれないという意味ではありません。最近は特に人材不足が深刻化する中で、優秀な人材は囲い込みたいという意識ある企業が増えており、たとえ採用ができなかった場合でも関係を持ち続けるタレントプールという考えが注目されています。
大学生の酒井君は、就職活動は一期一会だと考えていますが、経営コンサルタントのK・エーイ氏は、そうした昔の就活観は捨てた方が良いと諭します。二人のやり取りを聞いてみましょう。
就職活動は一期一会だから何をしても良いのでは?は間違い
―エーイさん、聞いてくださいよ。ちょっとこの前、面白い話があったんですよ。
何ですか?面白い話って。
―僕が大学でやってる就活サークルで、4年生が先日、面接に行ってきたそうなんです。でも、途中で圧迫面接っぽくなってきて、あまりにも腹が立ったから、会社の気になる点とか圧迫面接とかパワハラじゃないのかとか言いたいこと全部言って帰ったそうです。当然、ダメだったそうですけど、すごく気分が良かったんですって。
うわぁ。全然面白くありませんね。酒井君は、こんなことが面白いんですか?
―えー、だって痛快じゃないですか?就活ってやっぱり企業が上な感じですし。まあ、どうせ落ちてもいいやって思えたら、こうして言いたいこと言ってしまえたら気持ちよさそうだなぁって思いますよ。就活なんて一期一会ですから、後のことは考えなくていいんじゃないですか。
就活は一期一会なんかじゃないですよ。大体、社会人になって就職してからそこが取引先だったらどうするんですか?
―それはそうですけど、そもそもそんな可能性ほとんどないでしょう?相手は人事部ですし、接点なんて滅多にないですよ。
百歩譲ってそうだったとして、もうその人はその企業に絶対入れてもらえないでしょう?せっかく入社したいと思って応募しただろうに。
―そんなこと言っても、企業も一度断ったら、また採用しようなんて思わないでしょう?それなりに理由があって断ったんでしょうし、また採用したいなんてムシのいい話は無いですよ。
いいえ。あります。今は人材、とりわけ優秀な人材が欲しい時ですから、企業側は一度採用に失敗したとしても欲しい人材に目をかけ続けていることもあるんです。そういう仕組みを「タレントプール」と言うのですが、これは今後重要な採用の手段になると言われ、注目されています。
―それって一度採用されなかったとしても、採用される可能性があるってことですか?
はい。もしくは、内定は出したけど他の会社に行っちゃったとかのケースを含みます。だから、一期一会なんかじゃ決してないですし、その場の勢いで失礼な対応をしてしまったら、将来に渡って損をすることになりかねませんよ。
タレントプールとはどんなもの?
―そうなんですか。じゃあ、4年生はまずいことしちゃったんですね。
はい。もしも、その面接の前までは優秀な人材と評価されていたとしたら大失態ですね。
―「どうせ落ちるだろうと思った」そうですけど、わかんないですものね。ところで、さっきの「タレントプール」ってどういう採用の仕組みなんですか?
「タレントプール」というのは言葉の通りタレント(才能・人材)をプールする(蓄積する)ための仕組みですね。すごく簡単に言えば、採用したい人材のデータベースなどを言います。もう10年以上も前から経営コンサルティングで有名なマッキンゼーが人事戦略の中で提唱している概念ですね。
―データベースくらい、今どきみんな持っているんじゃないですか?
そうなんですけど、そうじゃないんです。タレントプールのデータベースというのは、企業が「いずれ機会があれば採用したい」人材のデータベースで、そのデータのひとつひとつは、採用に応募してきた人や、社員の知人や友人、取引先の人など様々なつながりの中で少しずつ集めていくものなんです。
―何でまたそんな面倒なことを。欲しい人材のデータベースをわざわざ作らなくとも、人材紹介会社に相談したらいいんじゃないですか?
そういう意見もありますが、タレントプールを作るメリットはとても大きいんですよ。そうでなければわざわざ作ることはありません。とにかく、タレントプールを持っていることによって、自社に必要な人材をいつでも、そしてジャストインタイムでスカウティングできるようになり、企業の採用の助けになるんですね。
タレントプールの持つメリットとは?
―タレントプールをわざわざ作るほどのメリットがあるようにはあまり思えません。また作ったところでみんな他の企業に就職しているでしょうから、役に立たないんじゃないでしょうか。
そんなことはありませんよ。タレントプールを持つメリットのひとつは、採用にかかるコストを安くすることです。採用活動の実施って、すごくお金がかかるんですよ。
―採用って、求人募集を出して、待っていればいいんじゃないんですか?
その求人募集のためのメディアや媒体は、応募者が来ても来なくてもお金が同じようにかかりますよね。また、多く来たらその評価をするための事務作業も多くなり、必要に応じてアルバイトや派遣社員を雇うこともあります。また、人材紹介会社に紹介をもらう場合も、採用した人の年収の3割くらいが相場になりますから人数を取ろうとすると結構なコストになります。
―採用ってお金かかってるんですね。それがタレントプールで解決すると。
そうですね。大規模な募集をして大きな母集団を集めなくとも欲しい人材のストックがあるわけですから。そこにアプローチしていけばいいんですね。しかも、通年採用が可能です。
―なるほど。でも、アプローチしても上手くいかないでしょう?みんなアプローチが来た頃に仕事を探しているとは限らないですよ。
タレントプールの発想としては、ただのデータベースではなく、タレントプールに入っている人に対して継続的にコミュニケーションを取っていくんです。ブログで情報を提供したり、イベントを企画したり、求人があれば先行公開したり。そうしながら、企業のことを知ってもらったり、「機会があれば是非来て下さい」という意志を表示しておくんですね。
―タレントプールって長い時間かけてくどき落とすような感じなんですね。
ええ、そうかもしれません。一度振った場合、振られた場合、色々あるかもしれませんが、情がある場合もあれば諦められない場合もあるかもしれませんよね。そういう場合に再び接触したり就職・採用のチャンスを得られるんですね。
―でも、そうそう上手くいくもんですか?
そこが課題ですね。タレントプールは作るだけでなく、上手く使いこなして運用することが大切です。現在のところは、運用に関してはまだまだ未成熟なので、研究や発展の余地は多いようですよ。
タレントプールにはどんな情報が記録されている?
―タレントプールって、どんな情報が記録されているんでしょうか?
基本的にはSFA(営業支援システム)とかCRM(顧客管理システム)に近い感じですね。まず個人に関しての名前や年齢、所属、特技、実績などの情報や、接触した人の印象などが記録されています。また、接触履歴なども残っていることが多いですね。
―タレントプールって結構色々なデータが記録されるんですね。
はい。このデータを元に、フラグ付けをして、欲しい人材としての順位付けをしておいて、人材が必要な時に順次上からアプローチしていくということになります。
―企業側から直接アプローチするんですか?
はい。もちろん、許可なくはできませんから、許可をもらった上でタレントプールに登録しておいて、継続的に連絡を取りながら良好な関係を作っておくことが前提になりますね。
―継続的な連絡とか人材の管理ってどうするんですか?
今は専用のコミュニティやシステムを作っていたり、SNSを活用することが多いみたいですね。まあ、興味を持ちやすいよう、負担のないように情報を発信でき、またやり取りができるシステムがあれば十分ですね。以前はデータベースを作るだけで活用できない企業が多かったそうですが、システム面が充実してきたこともあり、だいぶ運用も楽になってきたみたいです。
タレントプールには問題点もある
―タレントプールがあれば、企業だけでもお金をかけずに人材採用が可能になるってことですよね。
まあ、そういうことになりますね。
―でも、それならどうしてみんなやらないんですか?昔からそういう考えもあったと言いますし、仕組みを聞いても難しいってほどでも無いと思うんですけど。
はい、その通りです。タレントプールにも問題点があるためになかなか活用されて来なかったんですよ。酒井君、タレントプールは欲しい人材に直接アプローチできるのがメリットですが、「欲しい人材」ってどういう人材ですか?
―僕にはわかりませんよ。人事の人ならわかるんじゃないですか?
いや、実は人事の人でもわからない場合が多いんです。というのは、日本においては職務が明確になっていないことが多く、結局どういう人を取ればいいのか明確でなかったり。それを人事部や経営者の経験とカンで採用していくという企業は多いですね。
―なるほど。
経理が欲しいって言われたからそういう人を取ったけど、社内の方針転換で営業部署に行っちゃうみたいなことが往々にしてあるんです。だから「潰しの利く」ジェネラリスト人材、「基本的なビジネス能力の高い」人材が求められることも多くありました。でも、最近は「職務」を中心にしようという動きが始まっており、そのために欲しい人材を明確にしやすくなってきました。
―それもタレントプールが注目される理由なんですね。
はい。でも、まだ問題はあります。データベースには膨大なデータを蓄積することができますが、このデータの管理が面倒で、しかもその中で必要な人材を抽出するのが大変です。
―そっか。100人くらいならまだしも、1000人とか1万人になるとお手上げですね。
そういうことですね。とりあえず「新卒採用に応募してきた人をみんなタレントプールに入れておく」ということをすると失敗は目に見えてますね。しかも、情報のやり取りを通して情報は常にバージョンアップしてないと必要な時に使えません。
―すごく面倒な感じになってきました。
というような問題がタレントプールにはあるのですが、最近はAIなどを使うことでかなりそのあたりの処理も高速化できたり、効果的な提案をシステム側でしてくれるみたいです。情報の更新だけはどうしてもある程度の手作業になるのは仕方ないですけど、それでもSNSなどで個人の情報を拾いやすくなった分マシですね。
―なるほど。タレントプールには問題点が色々あるけど、時代が変わって解消されてきたから本格的な導入を検討されるようになったんですね。
その通りです。ただ、それでも本当に必要な時に必要な人材にアプローチし、実際に入社に結び付けられるかは担当者の力量による部分が大きいです。ただ、今後は職務ごとに優秀な人材の奪い合いが一層激しくなるでしょうし、採用に資金を投入しにくい中小企業ではメインの求人方法になるかもしれませんね。
タレントプール時代の企業との付き合い方とは
それで話が戻るんですけど、タレントプールが当然のように行われるような時代になってきたら、個人と企業との付き合い方も変えていかないといけないと思うんですね。
―やっぱり就活は一期一会ではダメってことですね。
そうですね。一期一会ではダメなのはもちろん、その企業にもしかしたらスカウトされるかもしれないと思いながら、「自分の能力や見識を積極的に見せていく必要がある」と思います。これは就活でも、仕事をする上でもアルバイトでも同じですね。
―何だかそういうのって、下心見え見えで嫌だなぁ。
嫌ならやらなくても良いのですが、失職時の転職に時間がかかったり、より収入を増やす機会が減ってしまうかもしれませんよ。タレントプールの良いところは「知っている人が評価している」ために精度の高いマッチングや評価が行われることです。より良い仕事や自分の専門性を発揮できる場をどんどん与えてもらえれば自己実現にもなりますね。
―確かに、そういう形で就職できたら働き甲斐があるでしょうね。
そうですよ。だって、企業の方から「君を認めているから来て欲しい」ってアプローチしてくるんですから。しかも、自分の能力が発揮できる場所まで確定的に与えられるわけです。
―う~ん、タレントプールいいかもしれない(笑)。それを思うと、先日の4年生はやっぱり失敗しましたね。ちゃんと付き合っていれば、後でまた良い機会が来たかもしれないのに。
そうでしょう?面白がってる場合じゃないんですよ。
―はい。就活サークルでも、タレントプールのことを説明して、企業と長く良い関係を作っておくとメリットがあることを教えていきたいと思います。タレントプールは初めて聞くお話だったので面白かったし有意義でした。ありがとうございました!
今後の就活ではタレントプールも意識しておこう
タレントプールは、企業が応募者と継続的な繋がりを持って繋がり続けようとする試みや仕組みのことを言います。今後、人材不足が深刻化する中で欲しい人材を低コストで確保するために有効な手段と見られています。就活はもちろん、仕事やアルバイトで企業に触れる機会がある人は、タレントプールのことも意識して関係作りをしておくと良いでしょう。