あなたは「恵方巻きの大量廃棄はもうやめにしよう」に賛成ですか
最近はSNSが普及したこともあり、小さな取り組みも全国的に大きく伝わることも増えました。節分の風物詩となりつつある恵方巻ですが、大量に廃棄される様子がSNSで拡散され話題となりました。
兵庫県姫路市を中心に店舗を展開するヤマダストアーというスーパーで「もうやめにしよう」と恵方巻を前年実績で販売することをチラシ広告しましたが、これもSNSで拡散され、立派だと多くの支持と称賛を得るようになりました。
就活で時事問題についての意見や考えを問われることも増えていますが、大学生の酒井君と経営コンサルタントのK・エーイ氏の会話を聞きながらこの問題について考えてみましょう。
「恵方巻きの大量廃棄はもうやめにしよう」は正義?
―エーイさん、そういえばあの「もうやめにしよう」って広告、どう思いますか?
あの恵方巻の広告ですか?新聞広告だかチラシ広告だかで呼びかけたという。
―はい。食品関係の企業やスーパーなどの小売店では、時事問題のトピックになりそうだということで就活サークルでも注目しているんです。
そうですね。まあ、いいんじゃないですか。
―あれ?何でそんなにテンション低いんですか?僕はまさに「その通りだよ!酒井君!」みたいな感じを期待していたのに。
うーん、まあ、正しいことだとは思うんですよ。でも、個人的には違和感があるんですよ。
―どういうことですか?どう考えても「もうやめにしよう」は大正義じゃないですか。
そうですかね。私に言わせれば、恵方巻くらいでちょっと大袈裟かなぁと。商売上のトークという印象なんですよね。
―うわっ!エーイさんがそんなひどい人だとは思わなかった。
ひどいってなんですか、まったく。大体、「もうやめにしよう」と思ったらこっそりやめたらいいんですよ。それを広告にするっていうこと自体が、もうビジネスなんですよ。そうなると、掲げている正義も疑わしくなる。そう思いませんか?
―うーん、そう言われればそんな気もしてきますね。
風が吹いていれば、それを利用して舟は前に進むんです。ビジネスも同じです。どんな風が吹いているかを読み取り、考え、利用して進んでいくんです。結果、件のスーパーは、ほとんど前年並みの販売量をキープしたでしょう。また、知名度も好感度も上がったでしょう。ビジネス的に大成功ですよ。
「もうやめにしよう」が浮き彫りにする恵方巻き大量廃棄の問題
ただ、ビジネス上の問題は別として、この「もうやめよう」を企業側から切り出したことには大きな意味があるかもしれませんね。
―どういうことですか?
たくさんの食品が販売される裏では、大量に廃棄されている食品がある。これは薄々みんな気づいているでしょうし、中で働く従業員は痛切なほど感じています。しかし、売上や数量などを判断している人はそれを数字で見ているのでリアルに感じられないのが普通です。
―そうですよね。僕もコンビニでアルバイトしていましたが、たくさんの食品が廃棄されていくのを日々見ました。
それを見ていれば、嫌悪感というか罪悪感というかを感じるのは正常じゃないかと思うんです。特に日本人は小さい頃から「もったいない」という言葉を叩きこまれていますし。
―あ、そういえば「もったいない」って、海外でも「MOTTAINAI」で流行しましたよね。
そういうこともありましたね。そんな中で、消費者や従業員ではなく、企業側が「もうやめにしよう」とこういう提案を出してきた。これは様々なところに影響が波及する可能性があるかもしれません。
―何かすごそうですけど、全然理解がついていきません。何か起こるかもしれないんですか?
はい。たとえば、バレンタインデーやホワイトデー、ひなまつり、子供の日、土用の丑の日や、クリスマスなどの様々な季節のイベントがあると思うんですが、「もうやめにしよう」が広がったら、これらのイベントでの消費が縮小していく可能性があります。
―それは商売をしている人にとっては困るかもしれないですね。それに、こうした日が冷めた感じになっちゃうのはちょっとつまらないかも。
そうですよね。こうした季節のイベントは、消費を喚起するためには絶好の機会でしたし、恵方巻にしてもニッパチと言って商業上手薄になりがちな2月の消費を盛り上げるという点で、業界主導でムーブメントを作ろうとしていたわけです。
―なるほど。それでコンビニではあんなに力を入れていたのか。僕やバイトの同僚は、2月なのに外で呼び込みまでしてましたよ。
食べ物の廃棄を減らすということは食料資源や地球環境の保全という点ではとても大事なことです。特に日本は廃棄される食品や、食品包装のためのゴミが非常に多い国ですからね。
―ちょっと前と比べると頑張っている気はするんですが、まだまだなんですね。
はい、まだまだですね。環境に対する意識は高まってきましたが、経済と天秤にかけた時に、今までは経済に傾いていました。この流れが、この「もうやめにしよう」問題をきっかけに逆を向く可能性があると期待したいものです。
「もうやめにしよう」で持続可能を考える機会にしたい
―「もうやめにしよう」の広告では、「売上至上主義、成長しなきゃ企業じゃない。そうかもしれないけど、何か最近違和感を感じます。」って内容も書いてありました。
はい。こういう感性を表に出す企業が出てきたというのが興味深いとも言えます。「これ以上成長することよりも今を続けられることを大事にしたいです」というのは、まさに「サステナブル(持続可能)」という環境保護の概念です。
―そういえば、「持続可能な開発」って言葉はよくニュースなどで耳にしますね。
そうですよね。国連でも「持続可能な開発目標」を17の項目にまとめた「SDGs」というものがあって、この中には開発国が発展するために必要な目標だけでなく、先進国が発展を続けるために必要と思われる目標が掲げられています。
―「SDGs」の中には、やっぱり食料廃棄に関する項目もあるんですか?
はい、あります。「つくる責任、つかう責任」という項目があって、持続可能な生産と消費のパターンの確保を目指そうというものがあります。他にも、海や陸の環境保全に関する項目もありますよ。
―じゃあ、まさに今回の「もうやめよう」はこうした考えにのっとったものだと言えますね。「持続可能」について考えるいい機会ですね。
はい、そうですね。ただ、世論も含めてよく考えてほしいのは、持続可能を目指すのは地球環境や資源だけではない、ということです。企業もまた、継続して運営され、成長していかなければならない存在であるということです。しかも企業は競争環境の中にいますから、自分が有利になる見込みが無ければ動けませんね。
―確かに、環境保護と経済成長って両立しにくい面がありそうですね。
今後、日本では人口は減っていきます。その中で企業が成長しなくてはならず、かつ使える資源に制限があるのであれば、行きつく先はひとつしかありません。「値上げ」です。それを受け入れる覚悟が「もうやめにしよう」に賛成している人にどれだけあるでしょうか。私はちょっと疑わしいと思ってます。
自分は「もうやめにする」ことができる?
―ということは、恵方巻きを作る側も問題なんだけど、恵方巻きを買う消費者側にも問題があるってことになるんですよね。環境にやさしく、かつ安く商品を提供してほしいと。
そういうことになりますよね。原材料が高騰して、企業が何とか価格を維持しようとあれこれ工夫をしても「あれっ?小っちゃくなってる…これってステルス値上げ?」とか言って批判されるわけでしょう。SNSによって消費者は簡単に不満の声を上げることができるようになりました。これが値上げしたい企業にはプレッシャーでもあります。
―でも、いいことをしているなら協力してくれる人も多いと思うんですけど。
ん~誰にでも納得できる「いいこと」ならそうなんですけどね。たとえば、「物価が2%上がった」って言ったら酒井君はどう思いますか?
―え?「ちょっと困るんですけど」って感じです。
そうですね、そういう人は多いと思いますが、物価っていうのは経済成長と連動しているんです。物価が上がるのは、外部要因によることもありますが、基本的には消費意欲が高く、賃金も上昇している時ですから、「いいこと」なんです。日本は物価が高い国だとよく言われますが、それは経済成長の結果なんですよ。今、先進国ではインフレ目標2%が一つの目標基準で、それと同等もしくは上回るGDPの成長を目指しています。このラインが混乱もなく、持続が可能な経済成長だと見られているわけですね。
―あれ?じゃあ、物価が上がっても困らないってことですか?
まあ、困る人と困らない人が両方出てきますが、理論上は多くの人はさほど困らないはずです。でも、今は物価が上がろうとすると多くの人に叩かれてできず、消費意欲も低いままです。政府も頑張って賃金上昇からインフレ率、経済成長率の向上を目指しているんですが、賃金が増えても貯蓄に行き、成長のサイクルが回らない。
―将来に不安がありますから、貯蓄に走るのは仕方ないんじゃないでしょうか。
そうでしょうね。多くの人は、「自分が一番かわいい」わけです。社会的に「いいこと」よりも自分にとっての「いいこと」を優先するんです。賃金が上がって物価はそのまま。それが個人にとってベストですよね。
―はい。そうなったらいいですけど、確かにムシのいい話ですね。
そうでしょう。持続可能とかいろいろ言ってもなかなかそうならないんです。「もうやめにしよう」は企業に対して言えば正義に聞こえますが、自分に負担がある「もうやめにしよう」は受け入れません。たとえばレジ袋も個別包装もなかなか無くなりませんし、カーシェアリングより無理してもマイカーを持つわけです。
―何だか難しくなってきました。本音と建前と言うか、環境にやさしいことはいいことだとは思うんですけど、経済的な問題が出てくると確かに躊躇しちゃう人は多いと思います。
それが自然なんだと思いますよ。だから、「いいこと」に社会全体が向かうように経済を使って誘導していくんです。タバコのポイ捨てに罰金があるようにね。食べ物の廃棄が多いことは良くないですから、それに罰金なり、消費者の監視の目があって企業が経済的にコストが合わないと感じたら廃棄は減っていくと思います。
自分の生活で「もうやめにしよう」を見直していくのは大切なこと
―それにしても、「もうやめにしよう」ってちょっと流行しちゃった感がありますね。無理なダイエットから健康食品、イジメ、時には努力することまで「もうやめにしよう」ってフレーズが飛び交ってます。
それだけ影響力があったってことでしょうし、わかりやすいんですよね。ただ、本当にやめた方がいいことなのかどうかはちゃんと吟味しないといけないと思いますけど。
―でも、これだけ多くのことで「もうやめにしよう」が見られると、それだけ無駄なことが多いってことでもあるんでしょうかね。
そうですね。ミニマムライフやらシンプルライフやら、とにかく無駄を一切省いていこうというスタイルが人気があることからも、無駄、もしくは嫌々やっていることが多かったりするのかもしれませんね。
―自分の生活の中で「もうやめにしよう」って自分に提案できるものがあったらいいのかな。持続可能な自分のために。
お、酒井君、いいこと言いましたね。個人もあれもこれもしていたら持続可能な成長は無理ですからね。どこかで無理をしてモノやサービスを消費しようとしている、自分の生活を見直していくことは大切なことかもしれませんね。
「もうやめにしよう」が就活面接でテーマになったら
―「もうやめにしよう」の問題が就活面接のテーマになった場合には、どういう回答をするのがいいと思いますか?
どういう回答も何も、自分が思うことを言えばいいと思いますよ。企業の考えに合わせて答えても、入社後にフィーリングが合わなかったってことになりかねませんし。
―そうですね。「もうやめにしよう」について感じていることを正直に話せばいいんですね。でも、他の人と違いを出したいって気持ちがあるんですよね。
就活ではそういう人も多いと思うんですが、違いを作るなら方向と深さを考える必要があります。企業の目指すところと方向が合わないといけませんが、深さがある人はやっぱり評価されると思います。
―こういう場合の深さってどういうことなんでしょう?情報量?
いいえ、情報量というよりも「想像力」でしょうね。そして、論理的に破綻が無いこと、つまり論理性です。「もうやめにしよう」という広告が、どういう影響を社会に与えたのか、今後与えるのかをよく考えて、しっかり説明することでしょうね。付け焼刃で深さを出そうとすると、論理が破綻しますから時間を作ってゆっくり考えてみるとトレーニングにもなっていいですよ。
―なるほど。想像力と論理性ですか。こうして人と話してみたり、いろんな情報に触れてみるといろんなことが頭に浮かんでくるんですけど、ちゃんと整理していかないとですね。よし、頑張ってみよう!今日もお話を伺えてよかったです。エーイさん、ありがとうございました!
「もうやめにしよう」は論点を決めて深く考えよう
就活で時事問題が出ることも多いですが、「もうやめにしよう」は食品や小売では注目される可能性が高いテーマです。どのような論点を設定するかが大切ですし、想像力を働かせて深く論理的に考えることが大切です。基本的な情報は頭に入れつつ、自分でしっかり考えることがオリジナリティを出すために大切ですので、時間を取って考えてみましょう。