就職活動の志望動機で「家から近い」はNGなの?
就職活動では、どこのどのような企業に就職するかを選択することになります。その大事な選択の際、企業の所在地や勤務地について重視するという人は少なくありません。しかし、就活における志望動機で「家から近い」はダメだと言われています。もしも、家から近いことを理由に志望しているなら、一度志望動機を見直してみた方が良いでしょう。志望動機で「家から近い」がなぜNGなのか、その理由や対策についてご紹介します。
そもそも就活における志望動機って何?
就職活動では、自己PRと並んで定番となっている課題のひとつが「この会社を選んだ動機を教えてください」という、いわゆる志望動機を問うものです。エントリーシートでも履歴書でも、このような内容があるのは、それだけ企業にとって志望動機は重要だからです。
「動機」というのは、「キッカケ」や「目的」などを意味しますが、「企業を志望した動機」は「その会社に就職したいと思った理由」です。この時、企業側が考えている「理由」とは、給料や勤務地、福利厚生などの「労働条件」ではなく個人の考えや経験に基づく、「この会社で仕事をしたい」理由なのです。労働条件は実際に働く中で変えることができますが、会社のあり方や仕事の内容は変えることができません。だからこそ、「本当にこの仕事をしたい気持ちがあるのか?」を企業は知りたいのです。
自己分析をせず、アルバイトを探すように条件面を見て企業を選んでしまうと、志望動機と条件の区別をつけることができず、条件面での希望を志望動機として伝えてしまうことになり、当然、企業の設問の答えとしてふさわしくないため、評価されることが難しくなります。
志望動機で「家から近い」がダメな理由
就活の志望動機で、「家から近い」という理由は基本的にアウトです。
就職活動では、就職をするために自分を企業に売り込む必要がありますが、正しい売り込み方とは、相手のニーズに応える売り込み方です。自分をしっかり相手にアピールするためには、志望動機と言えども企業が考えているニーズに合わせる必要があります。
そのため、企業が求めていない回答は原則としてNGとなるため、「初任給が高い」「住宅手当など福利厚生がしっかりしている」「家から会社が近い」などの条件面を志望動機として述べてしまうと、企業から評価されません。
企業は、志望動機を通して「本当にこの仕事がしたいのか?」を尋ねていると言っても過言ではありません。その質問に対して「家から近い」という答えは、質問の意図から外れていると言うしかありません。企業としても立地が評価されても嬉しくはなく、むしろ他に理由はないのかと思われてしまい、失礼にあたります。
ビジネスシーンでは、相手に失礼な言い方をしないように表現に色々と工夫がされるものです。「本当にこの仕事がしたいですか?」という質問はできませんから、企業も「志望動機を教えてください」と回りくどく聞いているのです。「質問の意図が正しく読み取れない」「相手に対して失礼な発言をする」というマイナス評価になるため、「家から近い」はダメだと言われてしまうのです。
志望動機で「家から近い」が正当化されるには条件がある
「家から近いから」という志望動機は、全ての状況においてNGというわけではありません。それを志望動機とするのに適切だと思われる背景や事情があれば志望動機として認められる場合もあります。
介護が必要な親族が同居している場合
同居の親族に、介護が必要な人がおり、家庭の都合上どうしても職場と家が近くないと困るという場合には、「家から近い」がその職場で働きたい動機になり得ます。企業としては「この人は本当にやめずにしっかり働いてくれるのか」が関心事ですので、他の企業では難しいと思われる条件が提示できるなら志望動機として考えてもらえることがあります。
早朝勤務や深夜勤務が多い仕事の場合
シフト勤務が必要な職場で、早朝勤務や深夜勤務が多い仕事の場合は、企業側も家が近いことをメリットに感じます。仕事についての熱意や取り組み姿勢には不安を感じつつも、企業としても遅刻が少なかったり、いざという時に周囲をフォローできる、交通機関が動かない時間帯の交通費を安く抑えられるなどメリットを感じて評価することがあります。
地域に密着した事業をしている場合
企業が地域に密着した事業をしている場合、家が近所にある人が入社することで顧客層が広がる場合があり、企業側にもメリットになることがあります。このようなケースでは「家から近い」ことが評価されることもありますが、その場合だとしても志望動機としては「家から近い」ではなく「近所の人と密に接しながら働きたい」など、「場所」や「条件」ではなく、「仕事」に結びつけた表現にした方が無難です。
志望動機で書きたい「家から近い」に隠された本心を言い換えてみよう
どうしても志望動機が「家から近い」としか思いつかないという場合もありますが、その場合は「家から近い」を出発点として、一段掘り下げて志望動機を考えてみましょう。
「家から近い」志望動機を地元・地域に密着した仕事がしたいと表現する
家が近い場所で働きたいという理由には、「地元が安心できる」という心理がある場合もあります。地元や地域に密着して働くことで、自分らしさが出せる、貢献し甲斐を感じられるという人は「家から近い」ではなく、「地元や地域に密着した仕事がしたい」と表現してみましょう。
志望動機「家から近い」を言い換えた例文1
私が貴社を志望したのは、地域に密着した仕事で地域に貢献したいと考えていたからです。
私は地元が大好きで、幼い頃から母にお遣いを頼まれ、商店街の方々や、地域の様々な施設のお世話になってきました。そのため、多くの人が顔見知りであり、また自分によくして下さったので、私も大きくなったら地元で働き、地域の皆様に恩返しをするんだと思ってきました。それで、大学でも地域振興について学び、就職活動も地元密着型の企業を軸に探してきました。
貴社は地域に密着した保険代理店であり、現地採用も多く行うなど地域性を大事にしていて魅力的です。私は保険の仕事を通じ、地元の人々の暮らしを支えていきたいです。よろしくお願いします。
ポイントになるのは、「家から近い」とは言わずに、「地域に貢献できる」という観点から志望動機の内容を考え直してみることです。「家から近い」の中にある自分の本当の思いを、うまく仕事や企業につなげていくと好印象を与えられます。
「家から近い」志望動機を時間を大事にしたいと表現する
家が近い場所で働きたい理由には、仕事とプライベートを両立させるために時間を通勤にかけたくないというケースがあります。この場合は、「時間を大事に使いたい」という理由を掲げ、どうしてそう考えているのかを述べましょう。以下の例文を参考にしてください。
志望動機「家から近い」を言い換えた例文2
私が貴社を希望したのは、「時間を大事にしたい」と考えたからです。
私は学生時代から演劇をしており、劇団のスタッフとして参加しています。裏方ではありますが、劇団の運営や大道具・小道具の製作、演出の手伝いなど様々な仕事があり、役者たちと共に毎日遅くまで練習や打ち合わせを行っています。
貴社ではしっかりと勤務時間を管理されており、また個人のプライベートの充実が仕事の充実につながるという考え方を持っていることが大変魅力的に感じられ志望するに至りました。家が近いというのも、仕事と演劇、両方を両立する上で大きなメリットで、私にとってこれ以上ない職場環境だと感じています。
ポイントは、「時間を大事にしたい」という動機を「職場が家から近い」ではなく、企業の考え方や働き方に繋げることです。「家が近ければどこでもいい」のではなく、「この企業がいい」という気持ちが伝わるようにアピールしましょう。
「家から近い」をそのままテーマとした志望動機の例文
ここでは「家から近い」をそのままテーマにした志望動機の例文を紹介していきます。例文を見ながら色々と考えてみましょう。
「家から近い」を直接記載した例文
志望動機「家から近い」の例文1
私が貴社を志望したのは、事務所が自宅から近いからです。
私は健康管理を大事にしていて、毎晩ぐっすり寝て、朝に起きて、しっかり朝食を食べることを日課にしています。周囲には通勤に2時間かけるような人もいますが、私には到底考えられません。往復の交通時間だけで、1日の6分の1を消費してしまうなら、何もできませんし、そのような生活をしていては体も壊してしまいます。
貴社は自宅から歩いて5分の場所にありますから、朝の時間も余裕を持って仕事の準備ができ、始業からしっかり仕事ができると考えています。どうぞよろしくお願いします。
「家から近い」をアピールした志望動機では、この例文のようになりがちです。この例文の特徴を一言で言うと「自己中心的」となります。
健康管理の意識が高いことは良いことですが、企業への志望動機のアピールとしては、企業にとってのメリットを感じさせる必要があります。「始業からしっかり仕事ができる」というアピールはありますが、それは当然のことであり、あえて強調することではありません。
また、「通勤に2時間かける人」に対して批判的なのもマイナス要因になります。社会には自分の預かり知らない様々な事情を持った方がいますので、その事情を考慮せずにこのような意見を言ってしまうのはマナーや社会性の欠如を疑われます。特に今後はダイバーシティが重視されるため、このような狭量な考え方は厳しい評価を受けるでしょう。
「家から近い」を直接記載した例文2
志望動機「家から近い」の例文2
私が貴社を志望したのは、工場が自宅から近く、コンディションを保ちやすいと考えたからです。
私は健康管理を大事にしています。健康のために、生活リズムができるだけ安定するように心がけていますが、事務所が家から近ければそれだけ生活も調整しやすくなるので、私個人として非常にメリットがあると考えています。
貴社は最近の労働問題も増えている現状を憂い、労働者の健康を考えて福利厚生なども充実させていると会社説明会でも伺いましたが、私の希望にも合っていて、非常に働きやすい魅力的な企業だと感じています。
工場は早朝勤務や夜間作業もあると聞いています。家が近いため、体調管理や時間を守るという面もしっかり行っていきたいです。よろしくお願いします。
最初の例を少し直してみたのが例文2です。「家から近い」を直接アピールするのではなく、「健康」に焦点をあてているのがポイントです。
家が近いことの企業側のメリットを示しつつ、自分の健康に関する考えを簡潔に示しています。また、企業の考えと自身の考えが「健康を大事にする」という点で一致しているということを明確に示すことで、企業との相性を感じさせる内容になっています。
「家から近い」は、その奥にある考えを掘り下げ、テーマとして志望動機にすることで評価されるものに変わる場合が少なくありません。「家から近い」を全否定する必要はありませんのが、直接「家から近い」と言わずに、別の観点や表現を考えてみると良いでしょう。
企業は志望動機の「家から近い」を実は気にしている場合もある
24時間営業の店舗をもっている企業や、交通機関が動かない深夜帯の勤務がある企業などは、実は「家から近い」ことを気にしている場合があります。
志望動機として「家から近い」ことを強調すると「他に動機は無いのか」と思われてしまいますが、さりげなく「家から近い」ということを志望動機の中に入れておくと、住所を確認してプラス評価されることがあります。
企業としては、交通費の削減や、遅刻や休暇などのフォロー、トラブル時の対応など、様々な点で自宅が近い人がいると助かる面があるため、実は「家から近い」ことそのものは評価されることがあるポイントなのです。ただし、あくまで志望動機としての評価ではなく、他の選考上の採点をした上での加算になりますので、しっかり選考を頑張りましょう。
志望動機の「家から近い」は真の志望動機の出発点
就職活動では、志望動機を「家から近い」としてしまうと厳しい評価をされてしまいます。しかし、多くの場合、企業が「家から近い」ことを望んでいる理由を深く考えてみれば、企業が自分をどのような観点で評価しているかがわかり、志望動機らしい志望動機として作成できるようになります。
家が近い方が良い理由をうまく表現し、それを「この会社じゃないといけない」理由につなげていきましょう。「家から近い」は真の志望動機の出発点なのです。