通勤中に起こった労災も申請しよう
労災というと、就業中に起きた事故や、病気や怪我、障害などを思い浮かべることが多いでしょう。ですが、通勤の途中に起きた事故によって負った怪我についても労災として申請することができる場合があるのです。
労災は申請すればなんでも通るというものではありませんが、通勤中だからといって申請を諦める必要はありません。一定の条件を満たすことができれば、会社にいる間だけではなく、労災であると認められる可能性は十分考えられ、治療費を払わないで済みます。
ただし、労災だと認められるための条件はきちんと確認しておく必要があります。どうせ労災に認定されるだろう、と安直に考えてしまってはいけません。通勤中は会社の目が届かないところですから、特に注意しておくべきです。
労災と認められるケースはいろいろある
会社と自宅間の通勤中に起きた災害も、労災と認められる場合があります。通常、労災は就業中に起こった怪我などが原因である場合がほとんどです。例えば、重い物を持っていた時にそれを落としてしまって骨折したとか、機械に指を挟めてしまい怪我をしたといったことなどが挙げられます。
その他にも、過労やパワハラなどが原因で身体的または精神的な病気を患ってしまった、といったケースも労災に含まれることがあります。このように、労災は基本的に働いている間に起こったことが原因で被った不利益を指して言うのです。
通勤中の災いも労災として認められる
通勤中の災害と業務災害は、どちらも労災として認められるものです。通勤も就業の一環として考えられるため、その間に起こった災害は労働災害に当てはまるという考え方が適用されるのです。
具体的に通勤中の災害が労災と認められるためには、災害が起こった場所・時間が、本人の住居と就業場所との間の往復間であること、あるいは就業場所から就業場所への移動中であることが求められます。
労災で言う住居・就業場所とは
本人の住居というのは、例えば単身赴任をしていて家族とは別にマンションなどを借りている場合は、その場所が該当します。就業場所は、実際に業務を開始して、終了する場所を指します。ですから、必ずしも自分が所属している企業のことを指しているわけではありません。取引先の企業で就業を終えて直接帰宅するのであれば、労災を考える上ではその場所が就業場所に当たります。
労災で言う就業場所から就業場所への移動とは
就業場所から就業場所への移動とは、ふたつ以上の仕事をかけもちしている人などの通勤を指します。もちろんアルバイトやパートなどをかけもちしている人もこれに含まれています。
単身赴任をしている人の赴任先から家族が住んでいる住居への帰省も通勤であると認められています。この通勤中の災害も労災であると認められる場合があるのですが、労働者が何らかのやむを得ない理由があって家族と別居しているという条件がない限り、通勤中の災害であると認められることはありません。
通勤中の労災認定は通勤経路の指定がカギ
通勤中の災害が労災として認められるかどうかという問題について考えた時に気になるのは、どのような場合なら通勤中だと判断されるかどうかだということでしょう。
通勤中であると判断されるかどうかは、非常に難しい線引きがされています。その事案によって判断は様々であると言えますが、基本となるのは合理的な経路を利用していること、そして会社に申告している経路を利用していること、不要な寄り道をしていないことです。
通勤経路は会社に申告しておく必要がある
合理的な経路というのはただ単に直線状にルートを決めればいいというわけではなく、その労働者が一番使いやすい交通機関を利用する、途中で毎日のお見舞いのために病院に行くための道を使うなど、必要であれば最短距離である必要はありません。
もちろんその時にバスや電車などの公共の交通機関を使わず、自転車を使ったり、徒歩で通勤したりすることも認められています。通勤中に起こる災害に関して、その通勤方法は問題ではありません。
会社に申告している経路を利用しているかどうかという点についてですが、頻繁にその経路を逸脱している場合は早めに変更を申請しておくべきでしょう。いざ災害が起こった時に、通勤中だったとはいえ申告していた経路とは違っているという理由で労災認定がされない可能性があります。
いつもと違う経路で通勤するのは注意が必要
災害が起こった日に限って違う経路を使っていた場合は、なぜその経路を使う必要があったのかによって労災認定されるかどうかが決まりますから、理由を明確にしておく必要があるでしょう。道路工事をしていたから迂回したとか、病院に行かなければいけなかったからいつも使っている経路を通らなかったとか、そういった合理的な理由があれば通勤中の労災であると認められる可能性が高くなります。
次に、不要な寄り道をしていないかどうかということです。スーパーに寄って買い物をしたり、病院に寄って診察を受けたりすることは不要な寄り道とはされていません。ですが、居酒屋に寄ってお酒を飲んだり、映画館で映画を見たりするのは不要な寄り道として判断されます。
このように、明らかに生活になくてはならない行動であるとは判断しかねる寄り道は通勤経路として認められない場合があります。通勤中の労災は、あくまでも会社と自宅の往復間に起きた災害を指すものであるということを意識してください。
個人都合で通勤経路を変えた場合は労災が認定されない
休日に出勤するように会社から要請された場合の通勤中に起こった災害は労災として認められます。しかし、個人的に休日出勤をした場合の通勤中に起こった災害や、休日に会社のジムに行く途中に起こった災害などは労災としては認められません。
通勤は就業の延長として考えられているために労災扱いされているものです。個人的な都合で行われたことに関しては、一切関与してくれません。会社に関わっているのだから、必ず労災扱いしてくれるのだろうと考えてしまうのは大きな誤りです。
通勤中の労災は労災保険を使います
通勤中の労災は、労災保険を申請する必要があります。病院で健康保険を使うことがないように気をつけましょう。労災保険は、アルバイトやパートタイムで働いている人も加入しているため、必ず利用してください。
労災が起こった時に労災保険を使わなければならないということは、法律上で定められていることです。健康保険を使ってしまうと、後で全国健康保険協会が負担している7割の医療費を返済してから、労災保険へ請求する手続きをとるか、あるいは、医療機関で健康保険から医療保険へ切り替える手続きをとる必要があります。
7割の医療費の返済には相当な負担がかかってしまいますし、手続きには手間もかかります。ですから、誤って健康保険を使ってしまうことのないようにしましょう。通勤中であっても、労災であると認められれば労災保険を使うことができます。労災保険が給付されれば、治療費が高額になることを防げるでしょう。
労災の申請は労働者の権利
会社に労災の申請をしにくいという人もいるでしょうが、労災の申請は労働者の権利です。会社は労災の手続きをする義務がありますし、労災を隠すことは法律で禁じられており、実際に罰金を払うケースもあります。
労災保険ではなく健康保険を使ってほしいと言われた場合も、それは企業が間違っています。のちに健康保険を使っていたことが明らかになったら、会社も自分も問題視されてしまいます。事情をきちんと説明して、労災保険の申請をしましょう。
通勤中の労災は指定の病院に行こう
通勤中に起こった災害が労災であると認められた場合、まず治療を受けるために病院に行くことになるでしょう。その際に、なるべく労災病院、あるいは労災指定医療機関に行くべきであると言えます。これらの医療機関では、その場で治療費を払う必要がないからです。
労災指定医療機関がわからない場合は、一般的な病院などに行くことになりますが、ここではその場で治療費の立て替えを要求されます。のちに全額返還されることになってはいますが、どの程度請求されるかわからないため、できるだけ労災指定医療機関に行くことをおすすめします。
労災指定医療機関で診察を受けたら、請求書に記入をし、病院に提出をすれば労働基準監督署に届出をしてくれます。その後労基署が通勤中の労災であるかどうかの審査をしてくれて、最終的に労災であると認められれば給付金を受け取ることができます。
通勤中の労災を判断するのは自分ではない
通勤中に災害が起こってしまい、怪我をしてしまった場合などに、自分で労災ではないと判断することはやめましょう。労災かどうかを判断するのは、あくまでも労働基準監督署です。もちろん労災を申請した時点で会社が決めることでもありません。
通勤中の労災は判断が難しいところがあります。自分がどういった経路をたどってきたか、使った交通機関は何だったか、どこで寄り道をしてしまったかなど、考えてみると労災に当てはまらないような気がしてしまうこともあるでしょう。
しかし、実際に通勤中の労災であると判断された事例が数多くあることも事実です。労災だと認められれば労災保険の給付が望めます。初めから労災ではないと決めつけることはせずに、一度申請を出してみましょう。